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「ごめん!ホントにごめん!!」
そんなことを考えている間に、奈月が走って沙織の元へ駆け寄ってきた。
走ってきたためか、顔が紅潮している。
奈月を見ると、メイクは普段とそこまで違わないが、学校では禁止されている指定外のセーターを着て、髪もいつもは二つに結んでいるのに、今日はおろしていて、すごく大人っぽく見えた。
「いいよいいよ。いいね、今日かわいいじゃん」
そう答えた沙織に、奈月はますます頬を赤らめたように感じた。
「ばか。今日くらい頑張んないと意味ないじゃん」
恥ずかしそうに奈月が答えた。
「今日、ごめんね。私ももっとちゃんと意識してくれば良かったわ」
沙織が先ほどから考えていたことを口にする。
「何言ってんの!沙織は十分そのままでかわいいし!てかあたし以上に目立たれたら困るから、そのままでいいんだって!」
奈月はそう沙織に答えた。奈月はいつだって沙織の一番欲しい言葉をくれる気がした。
奈月の言葉で一気に沙織は、自分の気持ちが楽になるのを感じる。
「よし、行こうか。」
いつもよりちょっと緊張した面持ちで、奈月が言った。
走っただけが理由でない、頬の紅潮はまだ続いていた。
「…奈月、緊張してる?」
思わず、口をついて出てしまった言葉だ。
「当たり前じゃん!緊張してるよぉ~」
泣きそうな声で奈月が答えた。
その反応を見て、正直にうらやましいと思ってしまった。
沙織は、恋というものが良く分からなかった。
友達とは違う、異性への好き。
それは、私が奈月や、茉希、馨へ抱く感情とどう違うんだろう。
去年の文化祭、声をかけてきた男子は何人かいた。
連絡先を交換して、何通かメールのやりとりをした人もいた。
ただ、いざ、会おう!と言われると、めんどくささが勝ってしまい、けっきょく自然消滅的に連絡が途絶える。
それが沙織のいつも、だった。
「なんか、いいね」
素直に沙織はそう言った。
「私は恋とかよく分かんないけど、それだけ想える相手がいるってのは、きっととても幸せなことだよね」
そう言われた奈月は、こちらを向くと、
「沙織はいつも真剣に考えすぎなんだよー。もっと適当に、テキトーに。お気楽に生きないとしんどいぞ!」
と、いつものにかっと笑う笑顔でおどけてみせた。
真剣、なのかな。
テキトーに考えるって、何?
人を好き、って思う気持ちにテキトーって、あるのかな?
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