シンユウドウシ

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「そう言えば、いつからか、“さっち”って呼ぶより、“沙織”って呼ぶ方が増えたね」 自然と会話の流れを変えたくて、沙織はそう奈月に言った。 「そういえばそうだねぇ。やっぱみんなが沙織って呼んでると、ツラれるよね。馨もいつからかあたしのこと、“なっちゃん”じゃなくて“奈月”って呼ぶようになったしなぁ…」 その後も他愛もない会話をしながら、目的地の男子校まで歩く。 ただ、沙織の頭の中では、先ほどの奈月の発言がずっとリピート再生されていた。 沙織はグループに囚われている。 昔から、ジョシの“グループ感”が大嫌いだった。 どこかには属さなきゃいけない、見えない鎖のようなもの。 属さないものは、ハブられる感じ。 形のない圧迫感が“グループ”だと思っていた。 出来る事なら、ダンシみたいに、グループとか関係なく、みんなで仲良くやりたい。 誰と誰は同じグループ、みたいな、変な縛りの中で生きるのはしんどい。 ずっとそう思っていたはずだった。 沙織は、マジメ子ちゃん。 そうなのかな。 真面目すぎるから、こんな変なことばかり考えるのだろうか。 みんなそこまで深くは考えずに友達と付き合ってるの? 気が合う仲間が集まっただけで、それを私が“グループ”という見えない鎖で勝手に結んでいただけなのかな? 寂しがり屋だから、人と深く付き合わない。 奈月に色々言われた中で一番ズキっときた言葉だ。 分かっている。 図星だからだ。 けっきょくのところ、私は人に裏切られたくなかったのだ。 1人になる恐怖心が、人を遠ざけた。 最初から深く関わらなければ、自分が傷つくこともない。 一緒にいる仲間を“グループ”として、くくることで、 (この人たちは自分を裏切らない。そのために私もこの人たちを裏切らない) と自分の中に勝手にルールを作っていただけだ。 そして、そのルールに何よりも自分が縛られていたのだろう。 自分でも気づきたくなかったその本心をあっさりと奈月に見破られた。 それに沙織は何よりも驚いていた。 ジョシって何て生き辛いんだ。 そう思っていた自分こそが、何よりもジョシっぽかった。 沙織はそれを認めるのが嫌だった。 それをあっさりと、奈月に見破られるとは思ってもみなかった。 普段はあっけらかんとしている奈月になぜ見破られたのか。 沙織はそれが不思議でならなかった。
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