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「あぁ…着いちゃったよぉ。どうしよ、ホント緊張してきた。ってか聞いてる?」
お目当ての学校の校門前に着き、奈月は沙織に話しかけた。
「おぉ!ごめんごめん、聞いてるって」
沙織はそう答えた。思えば道すがらは、自分のことを考えるのに必死でほとんど会話を覚えていない。
「もーぅ。すぐ自分の世界に入っちゃうんだから」
ぷんぷんと頬を膨らましながら奈月が言う。
「ごめんごめん、って。それで?最初にどこ行く?」
沙織が奈月の機嫌を取るように、子供をあやすテンションでそう聞くと、
「こんだけ人多いしなぁ。とりあえず、どこかで昼ごはん食べながら作戦会議しよ!」
と、奈月が笑顔で答えた。
確かに周りを見るとジョシもダンシも、たくさんいる。
いつもの生徒数の倍以上がいるであろう敷地内は、言葉通り人で溢れかえっていた。
みんな、出会いを求めに来てるのだろうか。
沙織の目には、校庭に溢れる人がみんな、サバンナで狩りをしている動物の目に見えた。
今日はみんな、女子で、男子なんだな。
異性を感じさせるフェロモンが、そこかしこから出ているようで、沙織は人酔いしそうだった。
「賛成。まずは落ち着きたいかも」
元気なく、沙織はそう答えた。
「いらっしゃーい!はい、ドーナツ2つとアイスカフェラテね」
どうやらクラスの出し物としてやっているようなドーナツ屋へ2人は入っていた。
校門をくぐるとすぐ、たくさんの呼び込みにあった。
ここぞとばかりに始まっているナンパ合戦。
そのうちの1つに沙織と奈月も捕まった。
「へいへい!ドーナツ食べてかない?」
いかにもチャラい話しぶりでドーナツ屋の看板を持った男性に声をかけられた。
少し長髪の黒髪で、制服のシャツのボタンが2つ目まで外れている。
明らかに、“遊んでるんだろうなぁ”と思わせるのに十分の格好だった。
思わず身構える沙織と奈月。
「おなかすいたっしょ?とりあえず食べてこうよ!ね?」
よく見ると端正な顔立ちをしていたが、その勢いとしゃべりと見た目で、とにかく“チャラい!”という印象しか残さないような人だった。
奈月を見ると、困ったような顔でこっちを見られた。
「ま、いっか。どっか入ろうと思ってたし、ドーナツ屋行く?」
沙織がそう答えると、奈月は少し驚いた顔をして見返してきた。
顔が、この人に着いていくの怖い、と語っていた。
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