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赤いバージンロードを父と共に歩きながら、奈月は現れた。
3年ぶりに見る奈月は、前と全く変わらない、まるでまだ中学生のようなあどけない顔で目に涙をいっぱい溜め、それでも気丈に前を向いて歩いていた。
弱そうに見えるのに、芯は強い。
そう、まるで私とは逆だった。
そんな奈月だから私は仲良くなれたのだ。
隣にいた茉希は、昔からの涙もろさですでに嗚咽していた。
「奈月、綺麗だね…っひっく」
しゃくりあげながら茉希が言う。
うん。本当に。
奈月は父の手から、婿の手へと渡された。
そして誓いのキス――――。
これで、奈月はその人のものなんだね。
もう、私の手からは遠く離れるんだね。
良かったね。
心の底からそう思えた。
そして、そう思えることが不思議だった。
悲しさよりも、奈月が幸せになれる喜びが勝つ。
まるで小鳥の巣立ちを見送る親鳥のように。
そして、沙織も静かに、泣いた。
外に出て、友人達のライスシャワーの中を笑顔で歩く奈月は本当に輝いていた。
真っ白なこの敷地がとてもよく似合っていた。
太陽の光が辺り中の白い壁に反射し、その光を受けた奈月は天使のように輝いていた。
宗教画を見ているみたい。
私は決してこの地には交われない赤いバージンロード。
でも奈月を幸せにするための道となったのが、私。
より白を輝かせるための、“赤”なのだ。
そう思うと、急に自分もこの地にいることが許されたようで、自然と笑みがこぼれた。
その瞬間。
奈月と目が合う。
時が止まったんじゃないかと思うほどの静寂。
3年ぶりに、見つめ合う。
その瞬間、まさに世界は2人しかいなかった。
惹かれるのが、直感で分かる。
求めていたのはこの瞬間だったのだ。
思わず駆け出しそうになった、その瞬間に。
トスッ。
奈月は、ブーケを投げた。
さっきまで奈月に大事そうに抱えられていた、その真っ白なブーケは、私の懐で所在なげにたたずんでいた。
途端にブーケが異質なものに変わるのを感じた。
幸せの象徴として奈月を引き立てていたブーケは、今私のところで不安そうに色を隠している。
静かに、奈月が泣いているのが見えた。
私も、雫が頬を伝うのを感じた。
それでも、奈月と沙織の視線が外れることは、なかった。
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