トモダチドウシ

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気疲れに相反して、会話を盛り上げつつも、すでに自然に馨から“沙織”と呼ばれていることに気づき、恥ずかしさと嬉しさを沙織は感じていた。 ジョシ、って難しい。 下の名前で呼ばれただけで、急に距離が縮まったように感じ、それだけで心の壁が取られたような、嬉し恥ずかしの気分になる。 見知らぬ人と話す疲れを感じつつも、それでも距離を縮めたい、と思っている自分は何なのだろう。 やはり女子は徒党を組みたがる生き物なのかな。 なおも馨と話しつつも、冷静に自己分析をしていると、後ろから声をかけられた。 「んじゃ、“さっち”ね。」 振り返ると、八重歯をにっと出し、いたずらっこのように微笑む子がいた。 「さっち?」 思わず聞き返す。 今まさに距離を縮められると嬉し恥ずかし、と思ってはいたが、急激に詰め寄られすぎると、それはそれで引いてしまうのもまた、ジョシだ。 「似合わないからこそ、良いじゃん。あたしは“さっち”って呼ぶね。」 相変わらず八重歯を出し、ニカニカしてその子は言う。 「初会話で、“似合わない”まで言うとは、ずいぶんムカつく子だねぇ。」 笑いながら沙織は答えた。疲れてたのもあるのか、思いの外ストレートに返してしまった自分に沙織は驚いた。 改めてフォローしようと思って、自分から会話を振ることにした。 「えーっと、…山…本さん?は何て呼ばれてたの?」 「あたし、“山口”だよ。山口奈月。初会話で名前間違えるなんて、ずいぶんムカつく子だねぇ。」 自慢じゃないが、人の名前を覚えるのがとても苦手な沙織は、どうやら名前を勘違いしていたようだ。 その発言にとっさに先ほどの沙織の言葉を返してくる奈月。 一瞬、真顔で見つめ合うと、2人は声を揃えて笑い出した。 クラス替えが行われて間もないのに、ざっくばらんに話せるこの雰囲気が何だか楽しくなったのだ。 沙織も、奈月も、同じ気持ちだった。 「そこ、うるさいよー静かにしてー」 気づけば、保健室のおばちゃんに注意されてしまうくらい、沙織と奈月は盛り上がっていた。 話せば話すほど、趣味も性格もまるで真逆なことが分かった。 洋楽しか聞かない沙織と、流行のJ-POPしか聞かない奈月。 本ならミステリー小説が一番の沙織。マンガしか読まない奈月。 どちらかといえば冷静なツッコミ役の沙織に、常に笑い続けているような奈月。 びっくりするくらい、共通点が一つもなかった。 でも、それが面白かった。
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