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「ひろみとはもう二度と会わない」
「ふーん。別にいいけど」
「え!?」
「だからぁ、あたしも別にもう会えなくてもいいけど!って言ってんの!」
きょとんとした卓人にわたしはさらに言葉を続けた。
「卓人の変わりの新しい『保険』探せばいいだけだし、ほんともういいから。さよなら」
「ちょっと待って!! やっぱり俺 このままでいいから。『保険』でいい! だからっ!…」
卓人の必死の言葉を無視し「ごちそうさま」とお礼だけ言うとわたしは颯爽とレストランを後にした。
卓人の言いかけていた言葉なんてまったく気にも留めなかった。
付き合ってもないのに別れ話なんて!
まじ、あり得ないんだけど!
『保険』…
どこで誰が考えたのか知らないけれど便利な言葉。
この言葉に出会ったとき、私の中で何かがザワザワ動いたことを覚えている。
わたしが使う『保険』の意味、それは町中に溢れている生命保険や損害保険のたぐいではない。
《保険》
本命とうまくいかない場合、彼氏に昇格する男。
または誰も目ぼしい人が現れなかった場合、妥協して結婚または恋人にする男。
妥協だろうが何だろうが結婚する訳だから…だったらやっぱり『保険』も優秀なほうがいい。
しかしながら最近はどいつもこいつも『保険』にもならない男たちばかりでわたしは困り果てていた。
◇ ◇ ◇
「ひろみちゃん! ひろみちゃんに絶対見て欲しい、お勧め映画見つけたのぉ~」
同僚の弥生が目をきらきらさせ興奮しながら話しかけてきた。
山口弥生(やまぐちやよい) 25歳
唯一会社で恋愛話をする相手
ホリの深い顔立ちで背は低め
職業:OL(食品メーカー勤務)ひろみの同僚
彼氏あり。交際期間5年
「主人公に彼氏がたくさんいる映画でね! その彼氏たちを用途に合わせて使い分けしてるの。けど最終的にはどうにかこうにか彼氏を1人に絞るっていうストーリーなんだ。ほんとひろみちゃんみたいだから見に行ってみて! ひろみちゃんを見てるみたいでビックリしちゃった!」
「お言葉ですが、弥生ちゃん!わたし、彼氏いっぱいいないから! あたしの周りにいるのは彼氏じゃなくて『保険』だよ! ほ・け・ん!! てか『保険』にもならない男ばっかだけど…。だからあたしは1人に絞るまでもなく…」
と言いつつ…その映画に興味が湧いたので弥生に言われるがまま、わたしは映画館を訪れた。
映画はけっこう楽しめた。参考(?)になる所も多かった。
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