守る為に壊す

クリスマスと悲劇

(痛かったかな…？ごめんな千尋。ついさっきしたばっかの約束もいきなり破っちまったしな……ははっ、最低の彼氏だな…ごめんな。本当に…本当に……)

尻餅をついている千尋は突然のことに完全に頭がついてきていない。ただ大地と目が合っているその事実だけしか理解できない。

ふと一瞬、大地が悲しげに、自嘲気味に微笑み、同時に口を動かしたのを見た。大地の声は隣を通過してきたトラックの轟音に阻まれ、千尋の耳に届くことはなかった。そして刹那…

バンッ！！！
ズシャッ！！
ドゴッ！！

｢え…？｣

頭が追い付いていない千尋に止めとも言えるさらなる追い討ちがかかる。

目の前で笑っていた最愛の人が……

一瞬で消えてしまった。

最初の音はトラックが大地と衝突した音、その次はトラックにはねられた大地が民家の塀に衝突した音、最後は塀にぶつかりバウンドした大地が頭からコンクリートの地面に落ちた音。

｢え、あ…が、大…地…？｣

余りに突然の出来事に千尋は言葉が上手く出せない。

周りでその瞬間を見ていた者もいたらしく、その者たちは叫び声を上げ、慌ただしく携帯を取り出し救急車を呼んだ。そして野次馬たちによって現場は瞬く間に包囲されてしまった。

千尋は何が起こったのか未だによくわからず、大地の名をひたすら呟きながらふらふらと音のした方へ向かう……何が起きたのかわからなかったのか、あるいは脳が理解することを拒んだのか……。しかし千尋の足は止まらない。

野次馬も千尋の雰囲気に圧されすぐに道をあけた。

…そこで、千尋は自分が今まで愛していた者の最期を見た。

愛する者が何故自分を突き飛ばし蹴り飛ばしたのか、何故悲しげな笑みを見せたのか、何故自分の目の前から一瞬で消えてしまったのか、全てを悟った。

(千尋はほんとドジだからなぁ。オレが疲れちまうぜ。)
千尋の天然を笑って受け入れてくれた。

(ばーかばーか！！はははははっ！)
子供みたいな冗談ばっかり言っていつも笑わせてくれた。

(千尋のそーゆーところがほんとに嫌い。いい加減にしろよ。)
些細なことでの喧嘩。

(かわいいよ。だーいすき！)
ストレートな言葉で、純粋に愛してくれた。

―この手をずっと離さない―

約束…してくれた。

走馬灯のように大地との想い出が頭を駆け巡る。