7人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、この高校生活がみつこのその後の人生を大きく決定付ける。
不幸にも、半田アキオはその高校の入学式でみつこを見初めてしまう。
たった一目見ただけで、アキオの心は瞬く間にみつこの横顔で埋め尽くされた。
そしてここが、この女にしてこの男ありと納得するところ。
アキオは三日と堪えることができず、入学式翌日に学校中からみつこを探し出し交際を申し込んだ。そしてみつこはすんなりとそれを受けとってしまう。
そこからアキオの人生は始まった。
みつことの交際は困難を極めた。何しろろくに学校に来ないので連絡がとれない。学校に来ていると話を聞いても行方が知れない。そして会うことができても全く会話が成り立たない。アキオは毎日みつこと顔すら合わせることもできなかった。
一カ月も経つ頃にはみつこの異常さは学校中に知れていた。当然みつこと交際をしているアキオを見る目も日に日に痛さを増していった。
ある日、みつことの交際に心身共にすっかり疲弊しきり、眠れぬ夜を過ごしていたアキオの元をみつこが訪れたことがあった。教室の入口から中を覗いてこちらに手を振っているみつこの姿を見てアキオは目を見開き固まった。三限目の授業中のことだった。
すぐさま腹痛を訴え廊下に飛び出たアキオはみつこの元に駆け寄った。しかし用事がある筈のみつこはなかなか口を開こうとしない。いつになくしおらしく、少し困惑した表情でアキオを見つめるだけだった。
この子は今、自分に何か大切なことを伝えようとしている。
そう直感し、アキオは頭を振り絞りみつこが自分に伝えようとしていることを必死で考え始めた。しかし、すぐにアキオの脳裏に嫌な予感が過ぎる。そしてアキオは導き出した恐ろしい予想にまたたく間に全身を震わせた。
会えない時間。成り立たない会話。そして突然の呼び出し。
恋愛経験の乏しかったアキオにだって、それらが恋人という関係の何を意味するのかが理解できた。
まさか。そんな。まだ手すら繋いでいないのに。
しかし、死刑宣告を受ける直前の被告人のように引きつった表情で固まるアキオに言い渡された言葉は、気の抜けた台詞と共に、一瞬にしてアキオの表情を間抜けなものに変えてしまう。
「……なまえ」
「……へ?」
「あの、だから、その……あなたの名前」
「僕の名前が、どうかしましたか?」
「……教えて」
最初のコメントを投稿しよう!