夢の中であいましょう①

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 きっかけは何気ない家族会話だったが、母はみつこから恋人がいることを聞くと、「本当か! 本当か! 本当だろうな!」とみつこの肩をガッチリ掴んで何回も揺さぶった。これにはみつこも久しく母に恐怖した。また、恋人とは何なのかわかっているのかとも、母は何度もみつこに問いただした。  最終的に母はみつこに「みつこ、恋人になってしまったらもう結婚するしかないんだよ。そうしないと捕まるよ。法律で決められてるんだ」とまで言い放った。  結婚、という言葉を聞いた途端みつこはたちまち顔を赤らめた。さすがにそれくらい知っていた。アキオに対する恥じらいの原因はこれだった。  みつこの父はそんな二人を怪訝そうに見ているだけだった。果たしてこんな娘と付き合う男のことを将来息子と呼べるだろうか、という不安が父の頭には浮かんでいた。  弟はとくに反応しなかった。最悪もう一人姉と同じような人間が増えたとしても、自分には全く関係のないことだとすでに心に決めていた。  送られた手紙を、アキオは穴があくほどの目つきで何度も読み返す。  今までほとんど顔を合わせることもなかった恋人が急にしおらしい態度をとるようになり、さらに恋人の家族から夕食に招待されてしまった。これは一体どういう風の吹き回しか。これからこの地球で何が起ころうとしているのか。アキオはこの時人生の不可解さを身をもって体験したのだった。  そして一週間後、アキオはみつこの家を訪れる。  小さい頃、よくあの屋根に登ったの。今もたまに登るんだけど、楽しいよ。  へえ。じゃあ今度僕も金魚を育ててみようかな。  そうだね。おいしく育つといいね。  緊張で会話すらままならない状態に陥ったアキオは、ガチガチの体を引きずってみつこの家の敷居を跨いだ。  敷居。そう。みつこの家にはなかなか大きな門が構えられていた。門から玄関まで十メートルほど距離がある。刈り揃えられた芝生の海を渡って、アキオは玄関の前で深呼吸を繰り返す。 「ただいまー。おかーさん。ほら、あれ連れてきたよー」  カラカラと鳴る横開きの扉を開いて帰宅を告げるみつこの横で、恋人に「あれ」呼ばわりされたアキオはショックを隠せない。  まさか自分以外全員敵だということはないだろうか。そんな不安が一瞬頭を過ぎるが、いや、食事に招いてくれたお母様は少なくとも敵ではないだろう、とアキオはなんとか持ち直す。
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