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「お父様! お母様! 大変です! 皆が廊下に倒れて……お父様?! お母様?! どうなさったのですか?! しっかりしてください……!!」
いつも聞こえる女中さんたちの足音などが聞こえなく、不思議に思って自室から廊下へ出てみると、使用人たちが倒れていた。だから父と母へ伝えにきたのだが――。
二人の部屋の襖を開くと、そこには血にまみれ床へうつ伏せに倒れた両親の姿があった。
「お父様…! お母様…!」
父の顔も母の顔も紙のように真っ白で、命が危ないのが分かった。
「……結…菜…」
「……お父様…!!」
「結菜……!! 早く…! 早く逃げなさい……!!」
「……え…?」
ガタッ…。
ミシッ、ミシッ……。
その時、床が軋む音がして振り返ると、見たことのない男がゆっくりとした足どりでこちらへ近づいてきていた。
「おや、これはこれは白凪(しらなぎ)の姫、結菜様ではありませんか」
冷笑を浮かべた男の手には血塗れた太刀。
(…まさか、この人がお父様やお母様、皆を……!! )
足が竦んで立ち上がれないでいる結菜を見て男はクスリと笑うと、素早い動作で短刀を取り出して結菜の右手首を斬りつけた。
――途端、焼けるような痛みが走りぬける。
「……っ……!!」
「ふふっ……。僕の顔を見た罰ですよ。………何てね。まさか結菜姫の方から来てくれるとは思ってませんでした。…後からお迎えに上がろうと思ってたのに」
そっと結菜に近づいて顎を持ち上げる。
「痛いですか……? 痛いですよね。だって短刀には…………呪詛、を込めましたから」
「なっ……! き、きさま……!!」
父が大きく目を見開いて立ち上がろうとするが、よほど傷が深いのか、起き上がることも出来ず、再び地に伏せってしまう。
「ご安心ください、龍清様。この呪詛はジワジワと姫を蝕むもの。今すぐに……というものではございません。姫には2年の猶予を与えましょう。それまでに僕を捕らえられたなら……その時は姫の呪詛を解いて差し上げます。……ああ。くれぐれも、無理に解こうとしないように。治るどころか悪化するだけなので。……では姫。また“結菜姫と”会える日を楽しみにしていますよ……」
そう言って男は黒い闇に包まれて消えた。
「結菜……」
男の消えた場所を睨んでいた結菜の手が優しく包まれる。
「すまない、私がふがいないばかりに……」
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