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「いただきます」
夜の七時、台所に三人の声が響いた。
「唯ちゃんが来てくれて本当に助かったわー。こんなに夕飯食べ切れないもの」
お母さんは、おほほ、という笑い声をセットに、唯ちゃんに向けて言った。
「あ、いえ…唯も仁君の家にお泊まり出来て嬉しいです」
「本当に?良かったわね仁、可愛いガールフレンドが出来て」
苛立ちを覚える母さんのわざとらしい言い方に、僕は何も言わなかった。
唯ちゃんだって僕をそんな風に思っていない…そう思ったからだ。
それから三人の会話は無くなり、窓の外で、木々達が重なり合う音だけが響き渡った。
僕と唯ちゃんが、夕飯を食べ終わり、食器を流しに持って行くと…母さんは背中を見せたまま、箸を止め、僕達に言った。
「仁…唯ちゃん…あなた達に言っておかないといけないことがあるの…」
母さんは背を向けているため、表情までは確認出来なかったが、声のトーンで分かる…いつものトンチが効いた話ではなく、もっと重要な…空気が重たくなるような話だ。
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