一年目‐春

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春は出会いと別れの季節と申しますが、正しくその通りでして。 私もその例に漏れず、多くの出会いと別れを経験しました。私の通う高校は県内でも上位に入る学校でして(といっても、上の下くらいでしたが)、何より合唱部で有名なのでした。かねてから歌が好きで、中学時代も合唱部で活動していた私は、どうしてもその学校に入りたく思い、少し無理をしてその学校に入学したのでした。しかし、他にこれといった特徴のないその学校は、私の通っていた中学からはあまり進学する人はいませんでした。そのため、多くの友達とは会える機会が非常に少なくなりました。内気で、中学の頃から友達といえる人が少なかった私は、ちゃんと友達が出来るか、ただそれだけが不安で仕方なかったのですが、杞憂に終わりました。というのも、みんな同じ考えだったようで、話し掛けてくれる人がいたら、すぐに打ち解けて仲良くなれたのです。 私の通っていた中学の人が、あまりこの学校に通わない理由は他にもありまして、校下から非常に遠いのです。なので、早起きの嫌な人はそこで諦めて仕舞うのです。無論私の家からもかなり遠いのですが、人の夢、つまり決心はそう簡単には折れてはくれないのでした。おかげで、私は毎朝早起きして誰もいない電車に乗って、増えていく人を眺めながら学校に通うのでした。 その、学校までの長い道程の中、私はいつも本を読んで過ごしておるので、回りにどんな人がいるのかはあまり知りませんでしたが、時折本を読む手を休めて回りを見ると、これから会社に向かうのであろうスーツの人、多種多様の制服を着た学生さん達が見られるのでした。 毎日、見える人も、見える場所も違う電車の中、いつも私の近くに、恐らく同じ一年生であろう男の子がおりました。毎日見ているとやはり気になるものでして、いつも座って本を読んでいるため、低くなっていた首の角度を、恐れ多くも少しばかり上にあげてみました。 最近の女の子はきっかけを欲しがるようなので、無理に当て嵌めてみると、恐らく、このことがそうだったのでしょう。 私と同じ本を読んでいたのです。あまりメジャーではない、海外の童話。ちらりと見えた拍子の文字からして、彼のはきっと原文だったのでしょう。なんて頭の良い人なんでしょうと思いましたが、とても長い期間、あの本を読んでいたあたり、そこまでではないのでしょうか。
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