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時は流れて土曜日。俺は何故か三上に呼ばれて奴の家を訪れていた。
「で、何の用だ?」
「まあまあ、まずはお茶でもどうぞ。」
「…いただきます。」
うん、美味しい。
「それでは本題に入りますね。始さん、身を守る手段が欲しくはないですか?」
身を守る手段か…確かに、欲しいかと聞かれると欲しくなる。
恐らく、俺は大山に目を付けられたはずだ。
前回は花音に助けられたが、毎回花音が傍にいてくれるわけでもない。
そもそも、女の子に守られるのは男としてはちょっとどうかと思う。
「まあ…欲しいな。」
「そうでしょうそうでしょう。」
三上が頷く。コイツの事だ。ただでとは言わないだろう。
どんな要求をしてくるつもりだ…?
「始さん、取引といきましょう。私の魔道具のテスターとなって下さい。」
「テスター?どういう事だ?」
「私が開発した試作型の魔道具を貴方に貸し出します。」
そう言うと三上はいくつかの小型の道具の様な物を手渡してくる。
「これらを使えば魔力を持たない貴方でもある程度魔法戦が出来るようになるはずです。」
三上が説明を続ける。
「まず、こちらのナイフです。これには一定の魔力を封じ込めてあります。所謂、下級魔法程度なら装備するだけで使用可能になるでしょう。」
「へえ、便利だな。」
「続いてこちらのブレスレットですね。これには私の最強魔法を封じ込めました。念じれば『タイダルウェイブ』、『サンダーブレード』、『アースクエイク』が各一回だけ使用できます。広範囲攻撃なので、よく考えてから使用してくださいね。」
「ああ…。」
そんな強力な魔法を使用する機会が来ないことを願う。
「まずはこの二つを使ってみてください。使用された際に戦闘データを自動収集し、自動で私の元に送るように設計していますので、それが対価ですよ。」
なるほどな。俺は身を守る手段を手に入れ、三上は新作魔道具の実践データを得ることができる。確かに悪い取引ではない。
「わかった。ありがたく使わせてもらうよ。」
「交渉成立ですね。こちらこそ感謝します。」
こうして取引を終えた俺は三上の家を出た。
時刻は昼過ぎ。大分腹も減ってきたところだ。
この後は特に予定もないし、何か食べて帰るか…。
そんな事を考えていた矢先だった。
「何やってるんですか始さん?」
声をかけられ振り向いてみると、花音がいた。
「花音か、偶然だな。友達の家からの帰りだよ。」
「そうだったんですね。それにしては帰るのが早くないですか?まだ昼ですよ?」
まあ確かに…。三上の家にいた時間はざっと二時間ほどしかなかったな。
「まあ、遊びに行ったってわけじゃないからな。野暮用って奴だ。」
「あら、そうだったんですね。」
「で、この後は飯でも食って帰ろうかなーと。」
何なら花音も一緒に来るか?とでも言おうかと思っていたが、それよりも先に彼女が言葉を発した。
「じゃあ、始さんの家で私が昼食を作りましょうか?」
…???
え、何ですと?
「どういうことだ?」
「はい!私、最近料理を始めたんですよ!それで、一度始さんにも食べてもらいたくて!駄目ですか……?」
「勿論構わないぞ!むしろ大歓迎だ!」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
満面の笑みを浮かべている。
あー可愛いわマジ天使。
「あ、でも…冷蔵庫に全然食材が残ってないかも…。」
「それじゃあ、調達が先ですね!」
そんなわけで花音と買い物をしつつ、俺は家へと帰宅した。
「それじゃ、上がってくれ。」
「お邪魔します!」
「そういえば、お前の両親には伝えてあるのか?元々遠出する予定何てなかったんだろう?」
「大丈夫ですよ。両親は私がちょっといなくなった程度じゃなんとも思いませんから。」
「そうなのか……」
普通、年頃の娘が帰宅予定時間になっても帰らなかったら心配すると思うんだけどなあ…まあ、この後輩に限っては例外…なのか?
「まあ、とにかくゆっくりしていくといい。」
「はい、お言葉に甘えさせてもらいます!」
そう言って彼女は靴を脱ぎ、リビングに向かって行った。
俺もそれに続いてリビングに向かった。
それからしばらくして、彼女が作った昼食を二人で食べた。
味は中々美味かった。
「ふぅ、ご馳走様。とても美味しかったよ。ありがとな。」
「いえ、喜んで頂けたようで良かったです。でも、まだまだですよ。もっと精進しなければなりませんね。」
「そんなことは無いと思うがな……」
「うふふ、褒めても何も出ませんよ?」
そんな会話を交わしながら食後のお茶を飲んでいる。
すると、花音がもじもじしながら話し出す。
「あの、始さん。一つお願いがあるのですが……」
「ん?なんだ?」
「この後少し、付き合って貰えないでしょうか?」
「一体どこにだ?」
「実は、新しくオープンしたショッピングモールに行こうと思いまして。一人で行くのもいいんですけど、せっかくなら誰かと一緒に行きたいなと思っていましたので。」
……なるほどな。
「そういう事なら別に構わないぞ。」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
「ただし、条件がある。」
「何でしょう?出来る限りなら頑張りますよ!」
「なぁに、簡単なことだ。」
そこで一拍置き、彼女に告げた。
「『普通』でいてくれ。それが約束できるなら何の問題もない。」
この条件には勿論理由がある。
これ以上変な連中に目を付けられないようにすることに他ならない。
仮に俺の身に何かがあって花音が大山戦の時のように立ち回ったとしよう。
どう考えても目立つのだ。
屈強な男と肉弾戦ができる女子というだけで目立つのに、細身の美少女となれば尚更のことだ。
「わかりました。『普通』ですね?任せて下さい。」
「ああ、普通だ。解っていると思うが、普通の女の子は素手で弾丸ライナーをキャッチしたり、大男と殴り合ったりしないからな?」
「ばっちぐーです!」
……果たして本当に信用していいものか? 少し不安が残るが、本人がこう言っている以上信じるしかないだろう。
こうして、俺達はショッピングモールへと向かった。
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