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流石に混んでいるな…
休日な上にオープンしたてとなれば当然っちゃ当然か。
そんなことを考えていると花音が話しかけてきた。
「始さん!早く行きましょう!」
「ああそうだな。」
「で、花音は何が見たいんだ?」
「私は、服が見たいです。」
「わかった。じゃあ、行くか。」
俺達は服屋に向かった。
店内に入ると、様々な種類の衣服やアクセサリーなどが並べられていた。
「それじゃあ、見て回りますか。」
「はい!」
俺達が色々と見ている間、店員がこちらをチラチラと見てくる。
おそらく花音に興味があるのだろう。……可愛いからな。
「ねぇ、始さん。この服可愛くありませんか?」
「どれどれ?」
その服はフリルのついた白いワンピースだった。
確かに似合うと思うけど……ちょっと幼すぎるかな? でもまぁ本人が着たいというのであれば構わないか。
俺はその服を着た花音を想像してみた。うん悪くない。
「いいんじゃないか?」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
さて、値段の方はっと……うわっ高ぇ。これだと買えないよな……。
花音はどうなんだろうか? そう思い花音を見ると、財布の中を見て固まっていた。……これは駄目だな。
仕方がない。ここは俺が出すしかなさそうだ。
大げさかもしれないが、花音には二度も命を救われたからな。
これくらいは安いものだ。
「花音、今日は俺が払うよ。だから気にせず好きなものを選んでくれ。」
「え!?悪いですよ!私も出しますって!」
「いや、いいんだ。花音には世話になったからな。その御礼って事で。」
「むう…そこまで言うのならわかりました。お言葉に甘えてもいいですか?」
「もちろんだよ。」
…しばらく贅沢はできないな。
俺はレジに向かい、会計を済ませた後、花音の元に戻る。
店員が「彼女さんにプレゼントですか?」と聞いてきたが、
「まあそんな所ですね。」と返しておいた。
正直、悪い気はしない。
その後、俺達は適当に時間を潰した後、
ショッピングモールの出口へと向かう。
「今日は楽しかったですね!始さん!」
「そうだな。」
「それで、始さん!最後に一つお願いがあるのですが……」
花音がそう言った瞬間、周りが急に暗くなった。
「なんだ?一体?」「始さん!上を見て下さい!」
花音に言われ、天井を見上げるとそこには巨大な『目』があった。
そして、次の瞬間、俺達の頭上に魔法陣のような物が出現した。
……うん、あれだ…意味わからん。
俺が思考を放棄したその瞬間、聞き覚えのある声が脳内に響いた。
「やあ、お困りのようだね始君。」
ニルスの声だった。
次の瞬間、ニルスが目の前に突如出現する。
タイミング良すぎないかコイツ?
「おい、ニルス!これはどういうことだ!」
「まあまあ、落ち着いてくれたまえ。説明してあげるから。」
「まず、何故君は今の状況に陥っているのかと言うとだな。簡単に言えば、俺達がやらかしちゃった。」
「……よし、聞きたいことがいくつかあるんだが、構わないな?」
「勿論。他ならぬ始君の頼みだしね。」
「まず、何あれ?」
「あれかい?アレは僕達が取り逃がした奴で…」
「僕達ってなんだよ、お前みたいな得体の知れない奴が複数人いるってか?」
「ご想像にお任せするよ♪」
こ…コイツ…。
肝心なところは話す気が無さそうだな…。
「で、お前は何してんの?」
「アレを追ってきたんだよ。放置するとまずそうだからね。」
「…よし分かった。とりあえずだ、さっさとアレをどうにかしてくれ…。」
「始君、ここは助け合いの精神を持つべきだと思うんだけど?」
どの口が言うか…。
「いや、俺が戦えないことは知ってるだろ!早くあの化け物をどうにかしてくれ!俺達は言わば被害者なんだよ!花音も家まで送らないと行けないんだからな!」
三上の魔道具の事は隠すことにした。
…そもそもあんな化け物相手に通じるのかも怪しい。
「おっと、それもそうだね。じゃあ、早速だけど始めようかな。」
ニルスが言うと同時に、一瞬で化け物の体の一部が吹き飛んだ。
「おおー!!」という歓声が周囲から聞こえてくる。
が、化け物の体は即座に再生してしまう。
「ふむ、この程度では駄目みたいだね。困った困った。何処かの誰かさんが力を貸してくれさえすればこの程度の相手、造作もないんだけどねぇ。」
「誰のことだそりゃあ?大山やらMTやらが近くにいるのか?」
「残念ながら違うね。もっと身近な存在さ♪」
…もしかして、花音の事なのか?
いや、いくら花音でもあんな化け物とは戦えないだろう…。
「ま、ここはどうにかしとくからさ。君達は早く逃げれば?」
そうだ、早く逃げないと。
周りの客たちもパニックになっている。
「花音?」
「えっ?はい、何でしょう」
「どうしたんだボーっとして。とりあえず逃げるぞ!」
「…あのニルスって人、何者なんです?」
まあ、気になるのは分かるが…。
「そんなことより今は逃げないとだろ?ほら行くぞ。」
「…はい。」
花音が最後に何かを気にしていたようだが、それが何であるかは俺には知る由はなかった。
こうして、俺達の一日は終わりを迎えたのであった。
後日、ニルスによるとあの化け物は無事討伐されたらしい。
詳細に関しては濁されてしまったが、人的被害がなかったようで何よりだ。
そして、それから少しの間俺は平穏な日々を過ごすことになる。
そんなある日の事だった。
俺は一つの噂を耳にする。
『隣のクラス…1のBに転校生がやってきた』という噂だ。
転校生ねえ…? こんな時期に珍しいな。
「この学園では転校生なんて珍しくないぜ。」
気が付いたら隣にいた達也がそう言った。
「そうなの?」
「ああ、特にこの学園は特殊な事情を抱えた生徒が多いからな。」
特殊ねぇ……。
確かに、この学園は普通じゃないからな…。
「ちなみに、お前も普通じゃない部類だからな。」
「ちなみに、俺はチョー普通だからな。」
達也が何故か自信満々に宣言する。
「いや、お前は変人だな。妹萌えの変人だ。」
「妹萌えのどこが悪い!」
「悪い。」
「即答かよ!」
「だってそうだろ?」
「くそ、まあ良い。とにかく、転校生の件だが、俺が思うにきっとただの一般人じゃないはずだ。」
「どういう意味だ?」
「勘だ。こういう時の俺の直感はよく当たるんだよ。」
……よく当たってたらそれはそれで問題だと思うんだが。
そんなこんなで今日も一日が始まる。
その日の昼休み、いつものように購買でパンを買うために廊下に出ると、何者かに呼び止めらる。
「……どちら様だ?」
振り返ると、そこには一人の少年がいた。
腰まで伸びた長い銀髪。
整った顔立ち。
美少年と呼ぶに相応しい容姿だ。
「はじめましてだね。俺は不知火アルタ。今日転校してきたばかりなんだ。」
「そうか、お前が噂の転校生か。俺は牧野始だ。よろしくな。」
「ああ、こちらこそ。」
不知火は微笑みながら答えた。
「で、俺に何か用なのか」
「ああ、ちょいと生徒会まで付いてきてほしいんだ。生徒会長がお呼びだよ。」
「生徒会長が?一体なんの要件だろう。」
「さあね。行ってみればわかるんじゃない?」
不知火についていく形で生徒会室へと向かう。
道中、不知火はずっと無言だった。
そもそも、転校してきたばかりのコイツが何故生徒会長と接触済みなんだろうか…。そもそも何故俺が生徒会長に呼び出されたんだろうか…。色々と疑問は尽きない。
「さあ、中に入ってくれ。」
「おう。」
生徒会室の扉を開けると、そこには現生徒会長…市川先輩がいた。
「ようこそ、我が生徒会室へ。」
市川先輩は笑顔を浮かべて歓迎してくれた。
「どうも、はじめまして。牧野始です。」
「どうもどうも。私は市川翔。この学園の生徒会長をしている。」
市川先輩が席に座るよう促してくる。
「失礼します。」
「まあ、まずはこれを見て欲しい。」
そう言った市川先輩の手に握られていたのは一枚の写真。
そこに写っていたのは……。
「俺!?」
「そう、これは君の写真だ。」
「何ですかこれ?いつの間に撮られたんですかね?」
「それは僕にもわからない。だが、この写真を撮った人物は間違いなく君を尾行していたね。」
「…そうなんですかね?」
その写真は、俺と花音がショッピングモールへ出かけた際の物だった。
偶然何者かに興味本位で撮影されたって線もありえなくはないが…。
「ああ。しかもそれだけじゃない。これを見てくれ。」
「何すかこれ…手紙?」
「そう、脅迫状だね。」そこにはこう書かれていた。
『牧野始、お前をナイフで滅多刺しにして殺す。』
「……は?」
「まあこういうわけだからさ。しばらく生徒会の監視を付けさせてもらうね。」
(面倒なことになってきたな……。)
「…わかりました。よろしくお願いします。」
「うんうん。じゃあ不知火君、任せたよ。」
えっ、不知火!?
コイツは今日転校してきたばかりじゃ…
「はい。わかりました。」
不知火は笑顔で答える。
……コイツ、マジで何者だ?
転校初日から生徒会メンバー入りとは、ただ者じゃないぞ…。
「なあ、お前は何者なんだ?ってか、どうやって生徒会に…」
「んー、ちょっと言えないかなぁ。でも、君の力になりたいっていう気持ちは本物だよ。だから、とりあえずは信用してくれないか?」
「…わかった。これからよろしく頼むぜ。」
この脅迫状騒動が、後に起こる大事件の幕開けになるなんて、この時の俺は思いもしなかった。
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