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結局、その後は何も起こらないまま放課後を迎え、俺は帰路へ向かおうとしていた。
俺は何かの部活に所属しているといったわけではない。所謂、帰宅部と言う奴だ。
何故か帰宅部員募集のポスターが貼られていたが、それはこの学園が異常なだけの事なので気にしない事にしている。
荷物を纏め、教室を出ようとしたところで呼び止められる。
「よう、始!お前は部活には入らないのか?」
この妙に馴れ馴れしい男の名は、須藤達也。
自己紹介で妹萌えを語った異常者だ。ちなみにコイツに妹はいないらしい。
「部活か…入る気はないな。」
「だったら暇ってことだよな!俺と部活見学巡りでもしようぜ!」
何でそうなるのかは知らんが、まあ断る理由はないな。
何か面白そうな部活があればワンチャンもあるし。
こうして、俺と達也の部活見学巡りが始まった。
「まずは王道、サッカー部からだな。」
達也はそう言うと、校庭の方を目指していく。
「まあ確かに…部活っていったらサッカーや野球が王道だよな。」
辿り着いた先では、生徒たちがサッカーボールを…投げていた。
「!?!?!?」
あまりにも意味不明な光景に、俺は言葉を失っていた。
「はえー…珍しいことしてんな。」
達也も思考がマヒしているようだ。
近くの壁を見ると、張り紙が張られていた。
『サーッカ部員募集中!一味違った部活を楽しみませんか?』
「なーんだ。サーッカ部だったのか。じゃ、しょうがねえな。」
達也が納得している。
まて、何処に納得する要素があったんだ。
「んじゃ、次行こうぜ!」
達也が歩き出す。
「お…おい、待てよ!」
俺も後を追う。置き去りにされてはどんな目に遭うか解ったものではない。
「次は…野球だな!」
達也は野球部を見学するつもりらしい。
「お…おう。」
俺は一切期待をしていなかった。どうせ、ろくな部活じゃないんだ…。
辿り着いた先にあったのは…普通の野球部だった。
「え、普通なんだ。」
「何言ってんだ始。野球に普通じゃないのがあるのか?」
さっきのを見た後でよくそんなことが言えたもんだな…。
「面白そうだから、練習に混ざってくるぜ。始はどうする?」
「俺は見学でいいよ。ここで待ってるから行って来いよ。」
「おう。行ってくるぜ!」
達也は練習へと加えてもらう事になった。コミュ力高いな。
それからしばらくの間、俺はボーっと野球部の練習風景を眺めていた。
うん、完全に普通の部活だな。警戒する必要はなさそうだ。
「危ない!」
不意に大声が響く。
俺の目の前には、フルスイングでかっ飛ばされたであろう野球ボールが迫ってきていた。
「…!?」
駄目だ、避けられない。直撃する!
俺は咄嗟に目を瞑る。
そして…何も起こらなかった。
…外れたのか?
そう思い目を開けると、俺の目の前には一人の女子生徒が立っており、素手で野球ボールをキャッチしていた。
「えっと…大丈夫ですか?」
彼女は俺に手を差し伸べてくる。
「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます。」
その女子生徒は、中等部の制服を着ていた。
この学園は中高一貫性であり、中学と高校は校舎こそ別々ではあるが、敷地は同じであり、中等部の生徒も高等部の生徒もそれぞれの校舎に出入りは自由である。
「そうですか、それは良かったです。」
目の前の少女が微笑みかける。
改めて見てみると、本来なら普通の俺には縁がないであろう凄い美少女だ。
彼女の笑顔を見て、思わずドキッとしてしまう自分に気付き、慌てて表情を取り繕う。
「ボーとしてちゃ危ないですよ?この学園では些細なことが命取りになりえるんですから。」
俺は我に返る。確かに、彼女の言う事はもっともだ。
「ところで、貴方は…と、名前が解らないと呼びにくいですね。名前を教えてただけますか?」
少女が尋ねてくる。
「俺は、牧野始だよ。」
少女の眉が一瞬ピクリと動いた気がした。
「私は、白河花音と申します。よろしくお願いしますね、始先輩!」
「ああ、よろしく…。始先輩か…なんか照れるな。」
「じゃあ、始さんって呼びますね。」
何で!?始先輩とか呼びも割とはずかしいが、始さんだと急に距離が近くなった感じがしてドキドキするんだが!?
普通は『牧野先輩』とか『牧野さん』とでも呼ばれるところだろう。
そして、冷静になった俺は一つの疑問を持つ。
(あれ…?この花音って子、素手で野球ボールをキャッチしてたよなあ…。)
まさかと思いつつ、俺は恐る恐る花音に質問をする。
「あの、白河さん。」
「花音でいいですよ?」
やだこの子、距離感がメッチャ近い。
「じゃあ、花音。」
「はい。なんでしょう?」
「今、どうやってボールを掴んだのかな?」
花音が不思議そうな顔を浮かべる。
「えっと、普通に素手で…?」
「え、素手って言ったら怪我しませんか?」
「多少は痛かったかもしれませんけど、怪我はしなかったと思いますよ?」
「いやいやいやいやいや!」
流石におかしいだろ!素手で野球ボールを受け止めたら下手したら指が折れたり、最悪骨にヒビが入ったり、肉離れを起こしたりするはずだ。
「え、何か問題がありましたか?」
「大有りだって!」
「えー、普通は大丈夫なんですよ?」
花音は首を傾げる。
どうやら、この子の【普通】と俺の考える【普通】は乖離しているらしい。
そうこうしているうちに、達也がこっちへ駆け寄ってくる。
「おい始!大丈夫だったか!?」
「ああ、まあなんとか。」
「そっか、それならよかったぜ。」
達也は安堵の表情を見せる。そして、俺の隣にいた花音に気付く。
「…始、誰だこの超絶美少女ちゃんは。」
「お前がボールをフルスイングしたおかげでさっき知り合った。」
「私の名前は白河花音と言います。よろしくお願いしますね。」
花音はそう言って微笑む。
「おう、俺は須藤達也だ。こちらこそよろしくな!ちなみに、兄弟はいる?」
「…?いませんよ。一人っ子です。」
「そうか…。」
達也のテンションが急激に下がる。お前は妹系にしか興味がないのか…。
俺の妹の事はしばらくコイツには話さない方がいいだろうな…。
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