侵略者たち

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朝、やかましい声で目を覚ます。 「始君、朝だよ〜!寝坊だよ〜!地獄行きだよ〜!かわいい女の子だと思った?残念、ニルスちゃんでしたー♪」 …いつの間にアラーム音に煽りボイスを設定しやがったんだコイツは? 「……今何時だ?」 「7時半だよ〜」 マジか……まだ眠いぞ……。 「始くーん!起きろぉ!」 布団を剥ぎ取られた。せめてもうちょっと優しく起こせよ。 「……って、何でいるんだニルス!」 俺はようやく目の前の異常な状況に気が付く。 どっから入ったんだコイツ…。 「一華ちゃんには許可貰ってるから。」 「は?お前一華と知り合いなの?」 一華とは俺の双子の妹だ。訳あって、今は別々に暮らしている。 両親は…物心ついた時にはいなかった。 家族といえるのは、一華と、俺達の育ての親代わりの人だけだ。 その人…綾さんは今出張で国外に出ており、この家には俺しか住んでいない。 「まあ色々あって知り合ったね。で、妹ちゃん公認でこうして君の部屋に侵入してみたわけだ!何の問題もないよね?」 「問題しかないわ!大有りだ!妹じゃなくて本人に許可取れや!てかどうやって入った!そして早く出てけ!」 突っ込みが追い付かないが、とりあえず思ったことを全部口に出してみる。 「えぇ〜仕方ないなぁ。」 ようやくニルスが部屋から出ていった。まったく、油断も隙も無いな。 その後朝食を食べ、身支度を整えた後学校に向かう。 当然ニルスはガン無視で。 しばらく歩いていると、花音に出会った。 「あ、始さん!おはようございます!」 「ああ、花音か。おはよう。」 彼女とは昨日知り合ったばかりだが、そんな感じは全くしない。まるで昔から知り合いだったかのような感覚になる。 「始さんの家もこっちの方面なんですね。」 「まあな。」 それから特に会話も無く歩いていると、前方からバイクに乗ったモヒカンの集団が現れた。 「ヒャッハー!遅刻だー!」 俺はツッコまない…ツッコまないぞ…。 「おう!お二人さん!元気してるか!?」 絡んできやがった…面倒くせぇ! 「ええ、まあ……」 「ヒャハハ!覇気がねえな!もっとシャキッとしなくちゃいけねえぜ?」 「えっと、貴方達は?」 やめろ花音、関わらん方が絶対にいいぞ! 「ああ!紹介が遅れたな!俺の名は茂火環(モ ヒ カン)!趣味はナンパ!特技は喧嘩だ!」 なあ、笑わせに来てるのか?実はそうなんだろ? 「お、おい、環。そろそろ行かないとヤバイんじゃねぇのか?」 「おお!そうだな!じゃあな!ヒャッハー!」 モヒカン共はバイクで走り去っていった。 てか、あんな格好してる奴らが遅刻を気にするんかい。 「変わった人達でしたね。」 「そうだな。」 その後は普通に登校し、授業を受け、昼休みになった。 が、この後が問題だった。 昼休み、何となく中庭で昼食を取っていた俺の耳に聞こえてきたのは、 昨日校内放送で聞いたのと同じ声だった。 「カースカスカス!もう終わりか腑抜けどもが!」 あの声…大山って奴だな。 学園を支配するとか言ってた奴。 チラチラ見てしまったのがまずかった。 大山は俺に気付くと、近寄ってきた。 「あん?そこのモブ!テメェは確か……誰だよ!」 「あ、牧野始です。見ての通りモブなのでお構いなく。」 「はっ、そうみてーだなぁ。おいモブ、お前はどっちに着くんだ?俺達か?MT供か?」 MT…?MTってなんだ? そう考えていると、大山の取り巻きたちが騒ぎ出す。 「MTは悪だ!」「MTを殺せ!」「大山皇帝万歳!」 「はっはっは!そうだ!俺様こそが正義なのだ!」 な…何を言っているんだコイツは…。訳が分からない。誰か助けてくれ…。 そんな時だった。 「あの……始さん?一体何をしているんですか?」 たまたま通りかかり、俺の気付いてくれたのであろう、花音が話しかけてきた。 大山がすぐに反応を返す。 「あ?誰だテメ…!?オイ…モブ、何だコイツは?」 大山の様子が変だ。慌てているような、驚いているような、そんな印象を受ける。 「誰って…後輩の…」 「そういうことを聞いてんじゃねえ!コイツの威圧感はなんだって言ってるんだよカスが!」 威圧感…?花音にそんなものはないだろうが。 「いや俺そういう能力ないんで。」 「チッ!使えねえモブだ。で、何の用だ?」 「その人…始さん、困ってますよね?」 「それがどうした?」 「始さんを解放してください。」 「嫌だと言ったら?」 「…。」 あ…あの…何かまずそうな雰囲気になってませんかね…。 「まあいい。で、テメエはどうなんだ?俺様に付くのか、MTに付くのか。」 大山が花音に問いかける。 「MTを倒すんですか?」 「ああ、邪魔だから学園の支配ついでにな!」 「支配する必要あります?」 その言葉に大山が眉をひそめる。 「あるに決まってんだろボケナス!」 「……では、私はどちらにも付きません。」 「私、この人の味方します。」 そう言うと、花音は俺の学生服の袖を引っ張る。 「だとすると…見過ごせねえなあモブゥ…」 「ちょ…花音さん!?」 「ケケケ…俺も始君一派かなーっと。」 突如として乱入してきたニルスが火に油を注ぐ。 「何処から湧いたニルス!頼むからこれ以上話をややこしくしないでくれぇ…」 「何だお前ら……揃いも揃って馬鹿ばっかかよ……。しょうがねえなぁ。分からせてやるしかねえかぁ…!」 大山が拳を握る。 「始さんに危害を加えるつもりなら……仕方ありませんね。」 花音の体から黒いオーラが出てきた。何なんだ一体…。 大山が反応を示す。 「テメエ…俺と同じ闇属性使いか?いや、何か違うな…まあいい、かかってきやがれ!」 「おい花音…やめた方がいいぞ…!アイツは…」 「大丈夫ですよ、始さん。私、ちょっとは戦えますから。」 花音が俺に微笑みかける。 そして大山と花音の戦闘が始まった。 「オラオラどうした!そんなもんかよ!?」 「くぅ……!」 花音が押されている……このままじゃマズイな。 戦えるとはいっても、中学生女子と高校生男子では力の差は歴然だ。 互いに武器を使用していない以上は大山に圧倒的に有利なのは明白だった。 先程花音が出した黒いオーラはすぐに見えなくなっており、花音はただひたすらに大山の猛攻を躱しているだけになっている。 「〜♪」 ニルスは何もしない…何しに来たんだコイツ…。 あぁもう!俺がやる!と言いたいところだが、生憎俺はごく普通の一般人だ。戦闘技能もなければ魔法も使えない。後輩の女の子に戦わせておいて自分は見ているだけとは…我ながら情けないものだ…。 何とかできないだろうか……。 「ニルス!」 俺は咄嵯に叫んだ。 「んー?」 「何とかしろ!多分お前ならなんとかできるんだろう?」 「で、対価は?」 対価って何だよ……あぁもう!クソッタレ! 「何でも良い!今必要なものを言え!」 「オーケーダーリン☆」 吐き気を催す言葉と共に、ニルスはニヤリと笑い、右手を前に突き出す。 「じゃあそうだねぇ、今後必要となった時、何でも言うことを一つ聞いてもらう。よし、それでいこうか。」 嫌な予感がするが、今はそれどころではない。 「……分かった。」 次の瞬間、ニルスが何かを詠唱すると辺り一面の時間が静止した。 厳密に言うと、俺達三人を除く時間が、だ。 「ほら、今のうちに逃げたらどうだい?」 「ああ、そうさせて貰う。にしても、何でもアリだなお前。マジに何者だよ。」 「さあ?」 まあ今は何だっていい。逃げだ。 こうして俺達は時間の静止した大山一派から逃げ出すことに成功した…が。 面倒なことになったかもしれない。 再び動き出した時の中で、取り残された大山は呟く。 「チッ、何なんだアイツら…。牧野とかいうモブは置いといて、他の奴らは中々に厄介そうだなカス。ニルスに花音…覚えておくカスが。」 さて、場面は変わり、ここは灯柱学園の生徒会室。 この学園における生徒会は教師と同等の権限を持っており、度々学園の情勢や生徒たちの様子について報告を受け、必要に応じて指導を行うという役割を担っている。また、基本的に問題に干渉しない教師陣と生徒間の調整役も担っているため、実質的に学園のトップと言えるだろう。 花音と大山との戦闘の裏でそんな生徒会のトップ、生徒会長の市川は生徒会メンバーからの定例報告を受けていた。 「で、何か問題はあった?」 市川からの問いに、書記の谷口が答える。 「どうにも、市川さんを倒して生徒会長の座を奪おうとしている奴がいるみたいですよ。」 「は?誰だよその身の程知らずは。」 「確か…木村康国とかいいましたかね。」 谷口の言葉に対し、市川は吐き捨てるように言う。 「あぁ……あのチンパンジーか。面倒だなぁ。」 「排除しますか?」 「いや、放っておけ。どうせ何もできやしない。」 「了解しました。あ、そうだ。頼まれていたMTについての調査も完了しておりますよ。」 谷口が続ける。 「お、有能。それで?」 「はい、やはりMTで厄介なのは【狂音のファ♯】、【四大元素使いの関さん】、【テンションダウンの遠ドゥ】で間違いなさそうです。」 市川に報告しながら、内心で谷口はこう考えていた。 (と、いうことにしておくか。全てをコイツに伝えた所でどうにもならないしな。) MT(マジカルティーチャー)とは、教師の中でも高い魔力を持つ者たちを指す名称だ。13人の教師から構成されており、基本的に生徒は彼らに逆らうことを許されていない。それほどの実力者集団なのだ。彼らは教師でありながら自由奔放に振る舞っており、時に生徒に害を及ぼすことすらもある。故に厄介なのだ。 「やはりな…。確か関さんって言えばあの【マッドハッカー】の異名を持つ三上を倒したって噂なんだよなあ。」 「はい。しかしそれ以外には特に目立った情報はなく……。」 「だろうな。」 「で、次は何をすればよろしいですか?」 「あー、そうだな。とりあえず引き続き情報収集を頼む。」 「分かりました。では失礼します。」 「ああ。」 谷口は報告を終え、着席する。 「他は?」 市川の問いに次に答えたのは、副会長の加々美久遠だ。 「行方不明の生徒達の行方はまだ掴めてないの?」 「ああ、一応捜索隊も編成したけど未だに見つからないらしいっすよ。」 市川に代わって答えたのは生徒会に入り浸る風紀委員の達也だ。 もはや自然に生徒会に紛れ込んでいるため、誰も気にしていない。 「……ふぅん。一体何処にいるんだろうね。」 「案外、この学校の中にいるんじゃねえか?例えば、生徒会室の中とかな。」 「はは、面白い冗談だね。」 「ソースは俺の勘だ!HAHAHA!」 「はぁ……」 「大丈夫ですよ〜加々美先輩。もし仮に生徒会内部に裏切者が潜んでいたとしても、私が返り討ちにしてあげますよ〜!」 そう言ってウインクするのは会計の三嶋胡桃である。 「あら頼もしい。でも気をつけてよね。私達の目的はあくまで学校の平和を守ることだから。やりすぎちゃ駄目だぞ☆」 「分かってますよ〜!」 「ま、この件については引き続き調査を続けていくよ。で、他には何かある人はいるかな?」 市川の問いに返事はなかった。 「じゃ、今日の定例会議はこんな所かな。んじゃ、解散!」 こうして生徒会定例会議は終了する。 「厄介だな…本当に…。」 誰かがそう呟いたが、本人以外は気付きもしなかったであろう。
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