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――その頃、灰谷と一輝は地下の物置部屋に居た。
一階の階段に近い部屋から、風呂場の手前にあるもう一つの部屋へ移動したばかりだ。
葛籠を蹴飛ばしてスペースを作っていた灰谷に、一輝が話し掛けた。
「……何か喋れよ」
灰谷の作業を手伝いながら、一輝は沈黙に耐えかねてそう言った。
鬼事が始まってから小一時間、二人は全く会話をしていないのだ。
一輝でなくても気まずく思うだろう。
「お前と話す事なんて、何も無い」
十分なスペースを作り、箪笥を扉の前へ移動させる灰谷。
作戦としては、昨日の作戦と大差ないだろう。
「俺だって別にねーし!でもそれじゃ小説としてはだな……」
最後の葛籠を部屋の端に避けた一輝の話を、灰谷は右から左へ聞き流すのだった。
「はぁ……、何で俺がこんな無愛想でムサい男と……」
「お前みたいな、チャラチャラしたヘボい男よりはマシだ」
二つ目の箪笥を扉の前に付け、動かしていない箪笥に寄りかかる灰谷。
また二人の間に沈黙が漂った。
「怜奈ちゃん、どうしてるかな……」
一輝は溜め息混じりにそう呟く。
そういえば助けて貰った事に対して、お礼を言うのを忘れていた。
それに気付いた一輝は、せめて今日は生き延びてお礼を言わなければ。
そう思うのだった。
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