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斬りつけた勢いを振り向かせる力へと変え、ヘマハは背後に迫り来る浅葱の攻撃を受けた。
浅葱とヘマハが刃を交えている最中、怜奈は背中から倒れる夜宵の身体を受け止める。
「どう……して……?」
怜奈が夜宵を庇ったのと同時に、夜宵も怜奈を庇った。
抱き締めた怜奈を無理矢理に後ろへ下げ、ヘマハとの間に立ちはだかったのだ。
「知らない、知る必要、無い」
怜奈の問いに答える夜宵。
斬られても口調に変化は無い。
無理をしているのか、それは夜宵にしか分からない事だ。
「仲間、危険、助け……ろ」
再び打ち下ろそうと斧を退かせた一瞬の隙を突いたヘマハは、浅葱の胸倉を掴んで涼介との間に立たせる。
引き金に指を掛けた涼介は、舌打ちはしても銃は構えたまま動かなかった。
「おらおら!撃てんのかよ、兄ちゃん!」
浅葱を盾にし、左右の肩口から交互に顔を覗かせるヘマハは、そう挑発をする。
その光景を見ていた怜奈だったが、夜宵も危険である事に変わりはない。
右肩口から左脇腹を切り裂かれ、その傷口からは大量の血が流れ出ている。
血を吸いきれない畳は、じわじわと血溜まりを広げ、新たに吸い込まれていった。
素人の怜奈が見ても危険なのは分かっていたが、手当てしようにも道具が何も無い。
怜奈は徐々に冷たくなっていく夜宵を、ただ抱き締める事しか出来なかった。
「これで、良い。私、貴女達、共存、不可能。これで、私、自由……」
夜宵は微笑んだまま黙った。
揺り動かしても、語り掛けても、何の反応も無い。
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