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「転属して三年、機動隊での仕事という物を殆ど経験しないまま、俺はある事件へ駆り出された」
先程見せた微笑は消え失せ、奥歯を噛み締める涼介。
本筋に入るであろう涼介の話を漏らさず聞く為、怜奈は聴覚に全神経を注いだ。
浅葱の表情は変わらないが、心境は怜奈と変わらないだろう。
「何とかって宗教の信者が起こしたバスジャック、要求は収監されている幹部の釈放だった」
右手に持った銃を左手に投げ、また右手に投げる。
涼介の表情は変わらず、怒りに満ちていた。
「金銭と違って、そういう要求は受け入れるのが難しい。過去の記録が物語っているし、今回もそうだろうと思っていた」
「示しが付かないもんね?」
一度それを許してしまえば、また同じ事件が起きる。
模倣犯を増やすだけだろう。
そう思った怜奈は、恐る恐るそう言った。
「あぁ、受け入れられないから説得をした。狙撃もしようとした、だけど犯人は身体中に爆弾を巻き付けていて、起爆スイッチも手に縛り付けてある。狙撃班もお手上げだった」
何処を撃っても、爆弾も起爆スイッチも身体から離れない。
射殺しても、一秒でも身体が動けば爆発させられる。
とても手が出せる様な状況ではなかった。
涼介はそう言い、弄んでいた銃を取り損ねて畳に落とした。
ゴトン、と音を立てた銃を拾う事なく、涼介はまた話を続ける。
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