過去と未来の間

7/49
前へ
/83ページ
次へ
「犯人は焦ていたと思う。だけどそれ以上に、現場指揮官が焦れていた」 強行突入、その作戦が現場指揮官の口から発せられた。 狙撃が出来ない犯人を取り押さえる事なんて、出来る筈がない。 そんな、失敗が目に見えている作戦の内容を口にする指揮官。 その場に居る全員が分かっていただろう。 だが、その場に居る全員は、それを口にしなかった。 「作戦会議中に俺の携帯が鳴った。……女房からだった」 作戦会議中に携帯を見るなど言語道断だが、気になった涼介は隠れて内容を見る事にした。 改行も変換もされていないメール、それは助けを求めた内容だった。 「乗ってたんだよ、そのバスに。一ヶ月に一度の俺の連休に合わせて、子供と一緒に……」 それが分かってしまえば、こんな成功する見込みのない作戦を実行させる訳にはいかない。 止めなければ…… そう思った涼介は、作戦の中止を上申した。 だが返って来た言葉は…… 「それなら変わりにお前が作戦を立案しろ。それが満場一致で受け入れられ、失敗した時はお前が責任を取るというのであれば、好きにするが良い」 その保身めいた言葉だった。 地位も実績も経験も無い涼介が立てた作戦に従う者など、誰も居はしない。 仮にそれが受け入れられ、成功したとしても、上司に睨まれるのは必至。 満場一致で涼介の作戦を受け入れる、それは逆に言えば、満場一致で指揮官の作戦を否定したという事だ。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加