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「犯人は焦ていたと思う。だけどそれ以上に、現場指揮官が焦れていた」
強行突入、その作戦が現場指揮官の口から発せられた。
狙撃が出来ない犯人を取り押さえる事なんて、出来る筈がない。
そんな、失敗が目に見えている作戦の内容を口にする指揮官。
その場に居る全員が分かっていただろう。
だが、その場に居る全員は、それを口にしなかった。
「作戦会議中に俺の携帯が鳴った。……女房からだった」
作戦会議中に携帯を見るなど言語道断だが、気になった涼介は隠れて内容を見る事にした。
改行も変換もされていないメール、それは助けを求めた内容だった。
「乗ってたんだよ、そのバスに。一ヶ月に一度の俺の連休に合わせて、子供と一緒に……」
それが分かってしまえば、こんな成功する見込みのない作戦を実行させる訳にはいかない。
止めなければ……
そう思った涼介は、作戦の中止を上申した。
だが返って来た言葉は……
「それなら変わりにお前が作戦を立案しろ。それが満場一致で受け入れられ、失敗した時はお前が責任を取るというのであれば、好きにするが良い」
その保身めいた言葉だった。
地位も実績も経験も無い涼介が立てた作戦に従う者など、誰も居はしない。
仮にそれが受け入れられ、成功したとしても、上司に睨まれるのは必至。
満場一致で涼介の作戦を受け入れる、それは逆に言えば、満場一致で指揮官の作戦を否定したという事だ。
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