~夢幻 桜宴~

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近隣の村の者も近付かぬ森の奥 生き物の気配すらせぬ湖の中央 船が無ければ渡る事のできない小島に ひっそり佇む祠が見える その祠を懐に抱き 大きな枝を複雑に絡ませた古木… 古い文献によればその木は八重桜らしい ここ何十年と花を咲かさぬ為 その木が桜だと知る者は殆ど居なくなってしまった… その枯れ桜には数々の「いわく」がついている 夜中に木の周りを踊りまわる黒い影 誰も居ないのに話し声の聞こえる祠 神隠しにあう満月の夜等々… 噂の流れる時期も違えば内容も一致せず ただ、それらの噂には一つの共通点があった 体験者は皆、必ず「桜が満開だった」というらしい… 私は、この桜にまつわる不思議な話を記録し、記憶していく者 すべては過ぎ去りし話 そして同時にこれから起こる話である この桜に時間は無く 変化は無く 終わりも 無く この桜に魅入られ、取り込まれる者が出ないよう 私は警告する それでも桜は今日も咲き誇る ~持ち主不明の手帳より~
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