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寝転がり眺める桜は綿飴のよう。
薄ら紅の綿飴は、満月浮かぶ闇空に滲んで溶ける。
依は今日も暇な時間を楽しんでいた。
暇だ暇だと思いながらぼんやり眺める風景、そんな時間を楽しむ事にかけてはおそらく右にでる者はいないだろう。
少なくとも、この祠に集う連中の中では誰よりも暇を楽しめる者であろうと思う。
時折聞こえる細波のちゃぷんという音。
はらり舞う桜の花弁の、ゆったりとした軌跡。
ほのかに香る金木犀の…金木犀?
「なん…で…金木犀が?」
ゆっくり起き上がり辺りを見渡す、香りの元を探し四つん這いの状態でずりずりと移動する。
しかし金木犀なんて見当たるわけもなく、やがて何もなかったかのように香りは消え失せた。
「桜に金木犀…なんて、季節違いも甚だしいよね」
気のせいだと自分に言い聞かせ、依は再び暇を楽しむ事にした。
うとうとしだした意識の中、再び香る金木犀に混じって、少女の声を聞いた気がした。
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