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† † †
―嗚呼、また居なくなるのね―
ふわふわ香る花の香りは金木犀。
目の前には可愛い金麗…キンレイはいつものように拗ねる。
「明日もくる」
手にした本に栞を挟み閉じる。
金麗が作ってくれた、金木犀の押し花が可愛いシンプルな栞だ。
「あら、来てもずっと本とにらめっこじゃない」
ツンと頭を振り、金木犀の周りをくるり踊るように回る。
いつから此処に立っているのだろうか、とても大きく天辺が見えない。
「大丈夫、試験ももうすぐ終わるから…それが終わったらゆっくり話そう」
だから機嫌直して、と柔らかい髪を撫でれば、金麗はぺろりと舌を出して走り去っていった。
彼女に出会ったのは一週間前。
香りに誘われ暗い山道を登った先に、この大きな金木犀と彼女がいた。
まだ二分咲といった金木犀も、今では満開に咲き誇る素晴らしい姿。
しかし香りはきつくなりすぎず、もう少しすれば散っていく花弁が、橙色の雪のように降り積もってさぞかし美しかろう。
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