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翌日、僕は朝一番に彼女のいる金木犀の下へ来た。
彼女はやっぱりそこにいて、僕に背を向け木を見上げている。
いつ見ても見事な金木犀だ。
この木とも、仕官が決まればお別れになるのかと思うと少し寂しい。
「金麗」
「嗚呼、貴方も居なくなるのね」
「来てもらえないという事か」
僕はがっかりした気持ちを隠す事なく伝えた。
裏切られたではなく、素直に離れる事への悲しさを。
「どうしてみんな、傍にいてくれないのかしら」
「傍にいたかったさ」
ざわりと木がないた気がした。
「私は傍にいてくれればそれで良いのに」
「それだけじゃ生活はできないよ」
「生活?地位?何よそれ」
くるりとこちらを向く金麗の顔にはいつもの可愛らしさは欠片もなく、女という生き物の恐ろしさが固まったかのような…。
「傍にいてくれないなら」
ざわり
「傍にいられないなら」
ざわり…
「こうするしかないじゃない」
ざくり
僕の胸に、橙色の花びらを散らした枝が深く突き刺さった。
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