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その差し伸べられた夏人の手と顔を交互に涙目で見、躊躇している不安げななげしを前に、再び夏人がため息をひとつこぼすと、なげしの腕を支えるように立たせ、怒鳴るわけでも諭すわけでもなく、そっと声をかける。
「ほら、他の人が踏んづけたら嫌な気分だろ!
早くゴミ箱に捨てろよ」
「うぅう゛……ぅん」
小さくしゃくりを殺し、アイスの棒を握りしめたまま両手の甲でゴシゴシと涙を拭ったなげしは、口をへの字に泣くまいとこらえ小さくコクリと頷き返事を返し、原型のあるアイスを両手ですくうと、トボトボと近くのゴミ箱に運んだ。
なげしの手がべとつき、気持ちが悪い。
「おら、行くぞ」
白けた仏頂面が板についた夏人が、もうなげしが転ばないようにと、ぶっきらぼうに手を差し伸ばすと、なげしは戸惑い自分の手を見る。
「で、でも、私手べとついてるよ」
困ったような顔で夏人を見詰め、何度も何度も自分のチョコレートまみれの手と、呆れ顔の狛犬の様な夏人の顔を見ている小さななげし。
「ぁあ゛? ただのアイスだろ?」
「あっ! なっちゃん」
呆れ口調でそっぽを向き、なげしの手をギュッと握り締めて前を歩き始める夏人に相反し、なげしは困惑気味に驚いた顔を浮かべ、前を行く夏人の背を見つめながら、小走りに後を着いて行き始めた。
「ほらよ。俺の食えよ」
夏人は不器用に振り返り、自分のアイスをなげしに差し出す。
夏人のアイスは青い色が涼しげなソーダ味のシャーベット。
「え? 良いよ」
「俺のが食えねーってのか?」
なげしは目をつむり、思い切りブンブンと首を横に振るが、夏人はムスッと不機嫌な声を出し、眉を更に険しくなげしに突っ掛かった。
「そ、そうじゃないよ。
じゃ、じゃあ、半分こ……」
なげしは顔を赤くし、すかさず提議すると、ゆっくりと夏人の差し出すソーダーアイスに手を伸ばす。
眩しい日差しの下、夏の虫がひっきりなしに二人の頭上で鳴きひしっている。
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