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「こんな店、よく知ってたね」
大雨の中並んで、ようやく座れたのは一時間後。
スズは丸い黒目がちな瞳をくるくるさせて、広くもない店内を見渡している。
見渡せば女の子ばっかりで。
でも、どう見たってスズが一番可愛い。
華奢な体は服を着ると鎖骨がきれいに見える。
そこから伸びた腕は、棒切れのように細くて。
肩までの艶々した髪と赤い小さな唇…。
ロールケーキよりもそっちのがウマそうだ…。
「ヨウ、食べないの?」
「えっ?」
スズを眺めていたら、とっくのとうに俺の前にはレモンのロールケーキが置かれてた。
「おっ、ウマそう!」
これが食べたかった。
レモンの皮がアクセントに入ってる、ほろ苦ロールケーキってやつ。
「スズはどんなの?」
四角いテーブルの斜め向かいで食べていたスズの皿をのぞく。
「私のはオレンジのロールケーキ」
「またぁ?」
呆れたけどスズらしくて顔が綻ぶ。
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