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「何も言わなくていい。今まで楽しかった。他の女の子もあと二人。かわいそうだからどっちか一人にしてあげてね。」 私はありったけのお金をおいて店の外へ出た。 彼はもちろん追ってなどこなかった。 椅子にへたりこんだまま、私の顔や姿まで、最後まで見ようとはしなかった。 いいわけなどされたくなかったからちょうどよかった。 店を出ると雨が降っていた。 また傘を持っていない。 不幸なことは重なる。 一気に来ると、体がもたなくなることだってある。 雨は大粒。 地面を跳ね返すほどの勢いをもって降り注いでいる。 強いおんなでありたかった。 最後まで冷静にかっこよくいたかった。 それなのに、こんな終わり方最悪だ。 彼は卑怯かもしれないが、私も卑怯だ。 悲しくなった。 自分がかわいそうで仕方がなくなった。 そう思うと涙がとまらなかった。 久々に長した涙は、雨と一緒に流れる。 だからどれが悲しみか、どれがむなしさか、どれが憎しみなのか、わからない。 誰も気づいてなどくれない。 無意味に流す涙ほど、私を貶めるものはない。
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