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雨が止んだ。
違う。
雨の音が鮮明なのは、誰かが傘を差し出してくれたからだった。
「何してんだよ。風邪ひくぞ。」
ビニール傘を持った男の人が、私の顔を見て悩ましげに立っていた。
「蓮王…。」
蓮王は何も言わず私のバッグを拾い上げると、乱暴に腕を取り、体を引き上げた。
「イタッ。」
「大袈裟なんだよ。早く行くぞ。」
「行くって?」
「帰んだよ、ばか。」
帰るって…
私ん家なのに。
そういいかけたが、また喧嘩になるのも嫌だったので、何も言わなかった。
今はそんな体力も残っていない。
部屋に帰ると、すぐにタオルを頭に被せ、何かを探すように臭いを嗅いでいる。
その姿はまるで犬だ。
「何探してるの?」
「救急箱的なのないかなって。」
「それなら」
「あっ、あった。」
私より先に彼は救急箱を探し出した。
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