第一章

2/38
前へ
/46ページ
次へ
「くぁ、ふぁあ~」  窓から陽光が差し込んできている。目覚ましより早く起きれたらしい。目覚ましより早く起きると損をしたと感じる人がいるらしいがおれは違う。あの電子音に起こされるより自力で起きたほうが良い寝覚めだ。 古い夢を見てた気がする。おれが双剣の男と出会った時の夢だ。  ここ最近は見ていなかったのだが久々に見た気がする。あれがおれの始まりだった。  寝間着を着替えて 早速トレーニングを始める。起きるとすることはいつもこれだ。  腕立て、腹筋、背筋、スクワットとスタンダードなトレーニングメニューを消化する。身体を鍛えていて損はない。おれが目指すものにとっては尚更だ。 「ふぅ」  汗を払う。20分ほどで終わらせたら庭に出る。脇に抱えたのは細長いものを包んだ袋。  庭の真ん中で袋から二本の木刀を取り出す。一本は予備などではない。これは一対だ。  それらを構えて頭の中にイメージを浮かべる。真っ白な空間の中で双剣を振るう男。それはおれではない。美しく、雄々しく、極限まで洗練された剣術。 「ふぅー……」  それに負けないようにおれの精神を研ぎ澄ます。集中、あの剣術を模倣するためのからくり人形に出来るだけ近づく。 「はっ!」  頭の中に描いた軌跡を追走する。無音、無色の世界。不完全なれど無我に至る境地。そこでおれは意識を身体に託した。  初撃は腰のバネを活かした矢のような突き、踏み込んだ右足を軸に独楽のような動きで左の刀で払う、次いで旋回の間に戻した右刀を踏み込みつつ袈裟に下ろす、そして右手を離して両手で一本の刀を握り渾身で凪ぎ払う!  一瞬の一連の動作を終えると全身からどっと汗が吹き出した。頭の中ではまだ双剣の男は動いている。だが人間の動きを超えたそれにおれはここまでしか追随出来ない。 「無様だ」  自虐的にはき捨てる。こんなのは形だけ真似たごっこ遊びだ。足りない。何もかも。鋭さも。速さも。力強さも。練度なんて足元にも及ばない。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加