第零章

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・幕開け  赤い日差しが部屋の中を染めるように射し込む。  僕らはここにいた。  侵略されることのない場所、ここにいる限り僕らは無敵だ。  でも僕らはここを出ていかなければならない。  そう、ここに永遠にいることは出来ないのだ。  だから、皆部屋を出ていく。  扉を開けて1人、また1人と。  行き先はきっと皆同じ。  だけど道のりはきっと皆違う。  その道のりには失敗と成功に溢れているだろう。  その道のりには悲劇も喜劇も待ち受けているだろう。  きっと僕らは誰一人同じ道のりにならない。  部屋にたくさんいた僕らはもうほとんどいなくなり、残されたのは僕と、あと1人だった。  外はもう暗い。  隣の君が出ていこうとする。  うん、なら僕も出ていこう。  覚悟を決めた、その矢先だった。  君が僕を押した。  僕は不意のことに踏ん張りきれずよろけてしまう。  なにをするの?  僕はたまらず問い掛ける。  君は僕を睨むその目で語り掛ける。  僕はここを出ちゃいけない、って。  なんで?皆出ていったのに。僕1人残らなくちゃいけないの?  君はまた、その目で語る。  僕はまだ、出てはいけないんだと。  まだ、ってことは僕が出ていい時がくるの?  彼は静かに頷いた。  そして今まで開かなかった口を開いて言う。  《お前はここで俺たちを見ていてくれ》  彼は僕に背を向けて部屋を出ていく。  うん、頼まれたなら仕方ない。  僕はここで皆を見ていよう。  いつか、僕がここを出るその日まで。
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