第零章

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//  玄関に踏み込んでぞっとするような寒気に襲われた。背筋が張りつく。血の気が引いていくのがよくわかる。凍える。頭から爪先まで。本能の警告。俺は、震えた。  一歩踏み出す。とてつもなく重い一歩。その一歩を踏み出すのに寿命を一年は削った気がする。  玄関の明かりをつける。玄関に誰かが踏み込んだ痕跡はない。当たり前だ。鍵が掛かっていたのだから。  いざという時に備えて靴は脱がずに踏み込んでいく。勘違いだったら後で掃除すればいい。  廊下の電気をつける。底の見えない闇に一歩ずつ墜ちていく。確信した。俺はあの町から逃げ切れていなかった。  ごくり。居間の扉に手をかけて覚悟する。飲んだ唾はまるで砂のように重かった。 「姫鶴……舞佳」  居間に踏み入ってそこにいた人物に驚愕する。廊下から差し込む僅かな明かりが照らすのは白と黒の絢爛なゴシックドレスに身を包んだ少女だった。 「おかえりなさい、お兄ちゃん♪」  俺に笑顔が向けられる。違うだろ。お前の兄貴は、あの時に、もういなくなってるだろ。 「……何で、ここにいるんだ」  カラカラの喉から絞りだす。少女はなおも笑っている。武器は……まだ持ってないようだ。全速力で後ろに振り返って逃げてここはマンションの三階だから……うん、飛び降りれる。 「お爺さま方がね、お兄ちゃんに会いに行きなさい、って言ってくれたの!だから嬉しくて嬉しくてあの日のドレスも着たのよ!」  本当に嬉しそうにひらひらと裾を翻して踊る少女。お爺さま方?誰だそれは。 「俺を……殺しに?」  あっ。口が滑った。ダメだろ、これは。だって、これ、言ったら、戻れないじゃん。そもそも殺人犯が俺みたいな一般人の元に来る理由ってさ、そう呼ばれる由縁しかないよな。
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