第零章

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//  気付けば真っ白な空間の中にいた。真っ白と言っても紙とか雪とかそんな白さじゃない。周りが白く輝いているのだ。こんなに光を放つ物質はこの世にない。非現実的な空間だ。  なるほど、俺は理解した。ここは天国なのだろう、と。それはそうか。真っ二つにされて人間が死なない訳がない。  となると目の前にいるこの男は死神か。剣二本もってる。かっけー。卍解!とか言うのだろうか。やばい、ちょっと見てみたい。 「なぁ、それって本物?」  双剣を指差して聞いてみる。三秒…七秒…十秒経過。返事なし。沈黙。仕方ない、質問を変えよう。 「なぁ、もしかして「今のは余の月牙天衝ではない、ただの斬撃だ」とか言ったりするの?」  やっぱ返事はない。このむっつりさんめ。ちょっとくらいお茶らけてくれたっていいじゃないか。くそっ、もう少し真面目な質問してみよう。 「なぁ、もしかして俺って死んだの?」  前言撤回、口に出してみるとかなりふざけた質問だった。 『貴様はまだ死んでいない』 「まだ?」  驚いた。まさか返事がもらえるとは。しかしどういうことなのか。俺はまだ死んでないらしい。ということはそのうち死ぬのか。いや、当然だな。 「ははっ、悔しいなぁ。結局、俺は何も出来なかったのか。くそ、俺は何も変えれなかったのか」  どこかでさっきまでのことは夢で、きっと俺は今夢の中にいるのだろうと願っていた。けど、やっぱりそんなことはなくて、第三者からこうして死の宣告を伝えられると受け入れるしか出来ない。  全身から力が抜けていく。身体がほつれていく。俺がバラバラになっていく。この空間に霧散していく。俺が消える。あぁ、やっぱり俺は何も出来ずに死ぬのか。  崩壊していく俺の腕を死神が掴んだ。なんだよ、俺は地獄行きなのか。 『貴様は何を望む』  死神は俺を真っ直ぐに見てそう言った。違う、こいつは死神なんかじゃない。わかったぞ、お前の正体が。そうか、つまりは、これが“俺”の人生の最後に残ったチャンスなのだ。  ならば何も迷うことはない。そう、本当にずっと望んでいたものはたった一つ。あの時からずっとただ一つだけだ。憧れ続けた。叶えれるってんなら叶えてみやがれ。何よりも高尚で何よりも幼稚な、きっと誰もが一度は願う事だ。 「正義の、味方だ」
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