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そして子供が魚を釣り上げると「おぉ、デカイのが釣れたな」と男は頭をくしゃくしゃ撫でる。男の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「帰ったらママに料理してもらおうな」
「うん!」
男は魚を窮屈なバケツの中に放り、餌を付けた針を再び沈めた。
……?
「きゃっ!」
一瞬、刺さるような冷たい風を浴びたと思うと何やらフワフワしたものが後頭部を覆った。可愛らしい悲鳴も聞こえた。
マフラーだ。ギンギンに照り付ける太陽と不釣り合いなそれを手に後ろを振り返ってみると、なんだか懐かしい学生服を身に纏うカップルがいた。暑そうな格好をしている。
寒そうな格好をしているおじさんが息子と思われる子供と並び釣りをしていた。寒そうだなぁ、と思ったら彼女のマフラーが突風に攫われておじさんの頭に引っ掛かった。ナイスおっさん。突風を浴びたらしい彼は身震いし、太陽を見上げ、次にマフラーを見つめた。そして俺と目が合う。誰かに似てんなぁ。
彼女がへこへこしながらマフラーを返してもらってきた。苦笑いを浮かべる彼女だが、その顔がまた可愛らしい。
「寒いなぁ……」
「これ食う?」
下げていたコンビニの袋からホカホカの肉まんを出す彼と、それを見て顔を輝かせる彼女。二人の間に言葉はいらなかったらしい。彼は肉まんを二つに分けようとした。が、しかしそれは叶わない。
「二つに分けたら私たちまで二つに別れちゃいそうじゃん。だからそのままでいいよ。いただきまーす」
「ぷっ」
彼は吹き出した。面倒臭い女め。でも、そこが可愛いんだ。彼は幸せだった。気づいたら手の中から肉まんが消え失せていたが、その気持ちに変わりはない。いつまでもこいつと一緒にいたいな。
「寒いな」
「あったかいよ」
辺りは一面真っ白な世界。それでも寄り添う二人は暖かそうだった。しばらく川沿いの白い絨毯に二人分の足跡が続く。
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