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しばらく歩くと川沿いの道は終わりを迎え、河原に下りるための階段が現れた。何か目的があって歩いていた訳でもなく、ただ何となく散歩がしたかっただけの二人は顔を見合わせた。さて、どうしようか。その時自転車のベルの音が聞こえた。
「ヒューヒュー、おアツいねー!」
「えっちぃのはいけないと思いまーす」
餓鬼め。
こっちは四人、あっちは二人。きっと戦ったら勝てる。そんな単純な思考回路を持つ子供達は、からかうのに躊躇がなかった。
子供達はそそくさと退散した高校生カップルを見て優越感に浸りながら自転車を下りた。釣竿や虫網、水鉄砲を携え階段をワイワイと駆け降りる彼らの目には、世界が輝いて見えているに違いない。そんな彼らに感化されたらしい太陽は、真夏のような日差しを川に降らせていた。早速水鉄砲での撃ち合いが始まる。純真無垢な笑顔。しかし最近の子供はませている。
「お前、さよちゃんと結婚するんだって?」
一人が全員に聞こえる大声で一人の少年に向かって言った。ニヤニヤ。
「っせ、誰があんなブス!」
少年は即座に言い返す。しかしそれが油を注ぐ行為であることを彼は知らない。
「わー照れてる照れてるー!」
「顔真っ赤ー! みんなで冷やしてやろうぜ!」
水鉄砲の撃ち合いは三対一になった。
騒ぐのに疲れた子供達は川沿いを歩いていた。少し落ち着いた日差しに誘われ、蜻蛉や蝶が子供達の頭上を飛び始める。少年は虫を採りながら上流へ向かった。
「おーい」
彼らは不意に気付く。川は終わり、目の前には急角度の川とも表現できる細々とした滝があった。その上から聞き慣れた声が呼ぶ。
「おーい」
他の声もする。同じクラスの奴の声。
「お前、木登り得意だよな。登ってみろよ」
「なんで俺なんだよー……」
だってさよちゃんの声したし、と誰かが呟いた。満更でもない様子の少年は軽くストレッチをし、傾斜を見上げる。登れそうだ。
「まぁ、俺達は後から行くよ」
「うん」
少年は登り始める。
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