出発

2/10
58006人が本棚に入れています
本棚に追加
/1045ページ
「シラタニ・レンジ・・・。レンジなどという家は知らんな。」 そんな事を言った彼女を、レンジが嘲笑う。 「苗字はシラタニだよ。名がレンジ。こちら風に言い直せばレンジ・シラタニかな?」 「やはり異国者か。姫の命を狙う汚らわしい蛮族め。」 「早とちりも良い所だよ、阿呆が。」 その言葉を聞いた瞬間、騎士隊長の気迫がドッと増した。 姫の護衛という立場、恐らく、他人から直接バカにされる事など無かったはず。 彼女の怒りは頂点に達し、剣を握る指に力が入ったのがレンジからでもわかった。 「貴様。言い残すことはあるか。」 なんと騎士隊長殿、人命を奪う権利すら持っている様だ。 怒りに震えた声が、殺害宣言を下す。 しかし、「言い残すことはあるか。」だって? 俺はここで殺されるのか? 冗談じゃない。 勝手に窮地に陥って、勝手に勘違いして、勝手に人を殺すだって? 冗談ではない! レンジの心に、ふつふつと怒りが沸騰してきた。 お前のワガママなどで殺されてたまるか。 俺をお前のワガママで縛るな。俺は俺のワガママでしか動かない。 幸いなことに、俺はワガママを貫き通す力を得た。 そして不幸なことに、俺はキレやすい若者だ。 不釣り合いな力を手にした馬鹿野郎だ。 もう知らない。どうなろうが知ったこっちゃない。 お前が悪い。お前が俺の理性を吹っ飛ばしたのが悪いんだ。 だから、 「恨むなよ?」
/1045ページ

最初のコメントを投稿しよう!