出発

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そういえば、人を殺したな。初めてだ。 衛生面を考えて取り除いた果物の皮は赤く、そしてレンジの視界端に映る死体も赤い。 そのどちらも、レンジがやってしまった事。 しかし、何故だろうか。レンジは命を故意に奪ったことに、なんらショックを受けていなかった。 ただし、ショックを感じない自分に衝撃を感じてはいるが。そんなにも、自分は捻くれていただろうかと。 自分が性格の悪い人間だとは重々承知していたつもりだ。何が何でも自分中心でしか動かない、クズだとは理解していたつもりだ。 それを周囲に悟られず元の世界で普通に過ごしていたのは、[その方が自分にとってメリットがあったから]というだけ。 殺人は法律が許していない。だから、そうしなかった。無力な自分が法を破れば、当然報いを受ける。それは嫌だというのが、自分の考え方だった。 だから、殺人はもちろん、その他の犯罪行為にも手を染めたことはない。 まあ、祝いの席で親戚に勧められての未成年飲酒くらいは認めるが・・・。万引きすらやったことがないのだ。 それは、[自分を守るため]という、ただそれだけのために。メリットよりデメリットの方が明らかに大きいことを、進んでやれる人間ではないのだ。 では、今は?力を手に入れたからか?そのせいで、殻を破りたくなったのか? ちょっと待て、自惚れ過ぎではないか? 確かに力は強大だが、今の状況では比較対象が少な過ぎる。この世界で自らの無茶を道理にできるほど、この力は強大なものなのだろうか。 それが分かっていないのに、人殺しに手を染めてしまうとは。 それとも、自分はこの能力が絶対だと、どこかでそう望んでいるのか?それとも、確信しているのか? 全く、こんなリスキーな選択をするとは。ファンタジーというのは、やはり侮れない。 そこまで考えた所で果物を食べ終え、レンジは出発の支度を始める。 1人になると、どうしてもテンションが下がってしまうな。 そう自分を笑いながら。
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