一冊目―friend? or―

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「おい、足。見えるって」 「え、やだエッチ! 何見てんのよ……」  「いや、お前が無防備すぎるんだろうが!」 じとっとした視線を向けられるが、僕が悪いわけじゃないと思うんだけどね。 「……」 「……」 「……なんかしゃべろよ」 「そっちこそ」 「僕は別に何も――」 「うそつき」 「なっ」 僕は打ち上げられた魚のように口をパクパクさせる。 「ま、いいけどね」 それからしばらく静寂が続いたが、やがてぽつりぽつりとスズは話し始めた。 何気ない日常のこと。 両親に対する温かな愚痴や、不満。 スズは僕が何も返さないのに構わず、しゃべり続けた。 そして―― どん。 どどん。 そんな力強い音と共に、空に大きな花が咲いた。 光で作られた、赤く鮮烈な ファイヤーフラワーが。 「うわぁ……綺麗」 「おお、すご……」 思わず出た感嘆に、スズはニコッとして、俺はたまらず口元をひん曲げる。 でもその後に、気付かれないように少しだけ緩めた。 それすらもこいつはお見通しのような気がするけれど。 「ねえ。時が経っても変わらないものって、あると思う?」 スズは花火の合間に、そんなことを言ってきた。 「……何だよ急に」 「いいから」 僕は不承不承、答える。 「そんなものはないよ。物質的なものは言うに及ばないし。この世のものはすべからく流転する。変わらないものなんて、ない」 「人の心も?」 僕は息を詰めるが、 「ああ。そうだ」 はっきりと断言する。 こちらを見つめてくる瞳には、いつの間にか真剣な色が浮かんでいた。が、僕は気付かぬ振りをする。 「ねえ。はっちゃんはなんで私を避けるの?」 スズは昔の呼称で僕を呼んだ。 幼い頃、共に過ごした日々のように。 こいつはそれが最後の繋がりだと思っているのだろうか。 それとも……意味を考えてしまうのは、自分こそが囚われているからなのか―― 「べつに避けてなんて――」 言いかけた言葉は、尻つぼみに消える。 代わりに嘆息。 「話すことなんて、僕にはない」 僕は逃げるようにその場を後にした。 *** 空を見上げれば、相変わらず花火が景気よく打ちあがっていた。 遠く聞こえていた歓声も、今は賑やかに耳朶を打ち始める。 僕はそれに無感動で、ただ参内への階段の途中に座り込んだ。
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