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その言葉で、言われないその部分をしっかりと含めたそれに、とうとう溢れだした雫が頬を伝う。
もういいだろう。
――――誰かに、そう。 確かに自分は、それを誰かに言ってもらいたかったんだ。
そろりと伸ばされたその手は昔のままぞくりとするほど冷たくて、けれど優しく涙を拭っていく。
あぁ、そうだ。 もう、いいんだ。
もう、いいんだ。
胸のなか、そして身体中に巡る歓喜。 その渦に呼吸を乱され、優しいその手にすがるように瞼を閉じた。
十六年。 ずっと、ずっと。
「――――ま、ってた」
闇の気配が揺れる。 冷たい手がそっと両方の頬を包む。 感情に高ぶる己の熱がその手に移り、境界がうやむやになる。
「ずっ、と。 ずっと。
待ってた。 」
――――貴方がきてくれるのを。
闇の気配が近づく。 意識も感覚も自覚も感触もなにもかもが歪んで、朧になって、それに全てを委ねようと力を抜いていった。
――――のに。
「――――!!!」
響くその声が、なくなりかけた『自分』を呼び戻す。
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