◆一月前

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 先日、精霊王が代替わりをした。 そして今は月が七つに欠けている。 まさに攻めるに絶好の機会だ」  精霊王の代替わり。 そして月の七つ欠け――――。 全員が息を呑んだ。  理事長はそんな事実を淡々と話しながら、しかしその口調はどこか楽観的な印象を受ける。 現在の状況は絶望的な筈なのに、それを理解していないのだろうか。 「精霊王が代替わりをしたばかりで、新たな王はまだ幼い。 そして現在欠けていく月が、満月になるまでまだ十八日日もある。 …………正直、勝てる気はしないな。 これだけでは」 「“これだけでは”? なにかあるんですか?」  理事長の意味深な言葉に、教師の一人が聞き返す。 理事長はくすりと口角を少し上げて笑んだ。 「そう、これだけではこちらに勝ち目はなかった…………前精霊王の置き土産がなければ」  全員がまたも驚き身を固めた。 精霊王の置き土産? 「代替わりをする直前、精霊王は予見したらしい。 これはごく一部、現精霊王とその側近のみしか知らされていなかったらしい。  前精霊王は、この国に良くない風がかかり、全てが失われる未来を視た。 しかしはっきりとそれがなんのことを示し、何時のことを指すのかまでは視れなかった。 そこで、前精霊王は最後の力をこの国の為に残したそうだ」  そして机の上に置かれた最後の紙には、その前精霊王が残した『力』についてが記されていた。 「 『水晶華種(クリスタル・シード)』  前精霊王はこれを、予見した百八人の名前と共に残した」  言われ、よく見れば確かに最後の紙の下半分は人の名前が書かれている。 しかも、理事長はその手にもう一枚紙を隠し持っていた。  全員が理事長を見つめる。 理事長も全員を見つめた。 そうして、一瞬の沈黙の後、理事長は口を開いた。 「正直、私としては戦うことを避けたいのだが、現実はそうはいかなくて…………君たちにこの話をするのも心苦しい」  そう言いながら、理事長は苦笑を浮かべている。 どこか、諦めが浮かんだ、哀しげな苦笑。 「けれど、私たちが立ち上がらねば、誰が大切な存在を守れるだろう」  大切な存在、大切な人、大切な者たち――――全員の目の奥に、きらりと光が宿る。  その変化に理事長は気付き、立ち上がり、全員一人ひとりを見渡して、ぐっと腹に力を込める。
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