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そんな生活が半年も続いた。由也くんと父親の冷戦状態は僅かに変化していく。会話は無くても同じ時間に食事をするようになったのが1ヶ月後、挨拶すらしない二人がボソリと挨拶するようになったのは2ヶ月後、片言で、ああ、だの、うん、だの会話をするようになったのは3ヶ月。そんな愚痴を由也くんのお母さんからランチをしながら聞かされる。あれから由也くんのお母さんは月イチのペースで私を誘ってくれた。私も由也くんのお母さんを抵抗無く“お母さん”と呼ぶようになっていた。
「綾香ちゃんをうちの娘です、って紹介出来る日も近いわね」
「だといいんですけど……」
そんな会話をしていた矢先だった。由也くんからメールが届く。今日は定時で上がります、ケーキを買って行きます、と書かれていた。
「ケーキ?」
私の誕生日でも由也くんの誕生日でもないのに。不安と期待が入り混じる。ケーキと言えば28歳の誕生日のとき、由也くんはケーキを買って来て突然土下座した。トラウマが蘇る、もしかしたらまた別れを切り出されるかもしれない。やっぱり駄目でした、とか……。
私は退勤後、スーパーに寄り買い物をする。万一由也くんに別れを切り出されてもいいように最後の御馳走を作るつもりで材料を買い込んだ。
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