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ガターンッッ!!
「遅ぉぉい!!遅い遅い!!このノロマ猫ー!!」
「ごめんなさいすみません申し訳ありませんー!!」
いつもと変わらず、静寂を賑わす二つの声が飛び交った。
「30分以内にと言ったら…」
「15分以内に来るのが当然!!」
「あら解ってるじゃない」
はぁ…。
投げ捨てられるように開放された彼。軽くふらつきながらも、心の底から溜め息をつき乱れた襟元を直した。
今夜も相変わらず頭からひょっこり猫耳が生えている。
「解ってますよ…ええ解ってますけど!!いくらなんでも『美味しい手作りクッキー(焼き立て)を持って30分以内(15分以内)に来なさい』…は常識的に無理があると思うんですー!!」
「うっさいわ猫。常識を覆すのが私達魔界に生きる者よ。解る?」
「今は人間界に生きてますが」
「うっさい馬鹿か!!口答えするとその耳千切るわよー!!」
「いやあの『馬鹿か』はいらないだだだだだすいませんごめんなさいー!!」
黒猫執事、学習能力ゼロ。毎度毎度痛い目を見なければ解らない。対する主様は何だか…楽しそう。
さて、こちらは人間界、横に浜と書いて海の見える街。
半月程前この街に無敵の魔女様がやってきました。
それはそれは美しい魔女様はいつだって我が儘し放題。自由で気ままな魔女様、事の始まりはこの一言。
『飽きた』
何がですか?もちろん執事さんは聞きました。
『魔界は飽きた。人間界の屋敷生活も飽きた。私パンピーな暮らしがしたいわ』
そんなわけで、ただ今のお住まいは閑静な住宅街にある小さなアパート。
執事の黒猫さんは今日も魔女様のお使いに大忙し……だとさ。
「アンタも此所に棲めばいいのよ」
「嫌です」
「何でよ。アンタ、イギリスの屋敷に居た時だって自宅から通勤だったわよね?」
「それは…」
そんな事決まっている。
『一日中こき使われて自分いつか過労死するのが目に見えてるから』
しかしそれは言えない。耳を千切られそうですから。
「…家が好きなんです。両親も大事にしたいんです」
「ふーん…あんな貧乏な家のどこが良いのかしらねぇ~しかも人間の」
そうそれがレナードの育った家。イギリスの郊外にある中年夫婦の…彼女の言う通り、貧乏な人間の家だった。
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