黒猫さんの事情

2/4
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/77ページ
ガターンッッ!! 「遅ぉぉい!!遅い遅い!!このノロマ猫ー!!」 「ごめんなさいすみません申し訳ありませんー!!」 いつもと変わらず、静寂を賑わす二つの声が飛び交った。 「30分以内にと言ったら…」 「15分以内に来るのが当然!!」 「あら解ってるじゃない」 はぁ…。 投げ捨てられるように開放された彼。軽くふらつきながらも、心の底から溜め息をつき乱れた襟元を直した。 今夜も相変わらず頭からひょっこり猫耳が生えている。 「解ってますよ…ええ解ってますけど!!いくらなんでも『美味しい手作りクッキー(焼き立て)を持って30分以内(15分以内)に来なさい』…は常識的に無理があると思うんですー!!」 「うっさいわ猫。常識を覆すのが私達魔界に生きる者よ。解る?」 「今は人間界に生きてますが」 「うっさい馬鹿か!!口答えするとその耳千切るわよー!!」 「いやあの『馬鹿か』はいらないだだだだだすいませんごめんなさいー!!」 黒猫執事、学習能力ゼロ。毎度毎度痛い目を見なければ解らない。対する主様は何だか…楽しそう。 さて、こちらは人間界、横に浜と書いて海の見える街。 半月程前この街に無敵の魔女様がやってきました。 それはそれは美しい魔女様はいつだって我が儘し放題。自由で気ままな魔女様、事の始まりはこの一言。 『飽きた』 何がですか?もちろん執事さんは聞きました。 『魔界は飽きた。人間界の屋敷生活も飽きた。私パンピーな暮らしがしたいわ』 そんなわけで、ただ今のお住まいは閑静な住宅街にある小さなアパート。 執事の黒猫さんは今日も魔女様のお使いに大忙し……だとさ。 「アンタも此所に棲めばいいのよ」 「嫌です」 「何でよ。アンタ、イギリスの屋敷に居た時だって自宅から通勤だったわよね?」 「それは…」 そんな事決まっている。 『一日中こき使われて自分いつか過労死するのが目に見えてるから』 しかしそれは言えない。耳を千切られそうですから。 「…家が好きなんです。両親も大事にしたいんです」 「ふーん…あんな貧乏な家のどこが良いのかしらねぇ~しかも人間の」 そうそれがレナードの育った家。イギリスの郊外にある中年夫婦の…彼女の言う通り、貧乏な人間の家だった。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!