怖い話･短編集､弐

エレベーターの鏡

そしてその後、
｢俺ってエレベーターに乗るとき、後ろから視線を感じるんだよね。やっぱり鏡のせいかな｣
と言ってきたのである。

だから僕は
｢鏡を背にして立つんだから、鏡に映ってるのは背中だろうに｣
と、至極当然に説明した。

それからしばらくして、僕は帰るためにエレベーターに乗った。

目の前には扉。鏡は後ろだ。

そこで、先程の会話が思い出される。
そう言えば僕も、なんだか視線を感じるな……

僕は恐る恐る背後を振り向く。

鏡にはやはり、後ろ向きの僕しか映っていなかった。

僕はエレベーターから逃げるように出ていった。