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「第一皇子、柚慧であるか。先刻、貴様の第二皇子暗殺未遂で指名手配が確定した、」
軍人ではない。
柚慧は腰を低く、周りを囲む紅い軍服をみる。
国家暗殺員か──では、父が内密に確定したのだろう。
誰が暗殺未遂だと、唇を噛むが。
「生け捕りの命令だ。反抗を認められた場合この場で処刑する、」
地を蹴り、高く跳躍した。
紅い軍服はすぐさま動き、蹴落とされる。
ついた地面に受け身をとれば、刹那に立て直した。
「反抗をするな、」
「……冗談、」
誰に口をきいているのか、柚慧は乾いた下唇を舐める。
思いのほかざらついた、そうして息を吐く。
「父の命令か、」
「答える義務はない」
飛んだ刃物に首を横へ、右に避けた。
踏み込み、今し方口を開く紅い軍服の鳩尾に滑りこむ。
素手とは少々心許ないが──昔から命を狙われる身だ、護身術にはたけている。
腕を振り上げ顎下を狙い、体重をかけ押し倒した。
動く多数の気配に、彼の頸動脈に手をかける。
「動くな、」
言えば、数メートルの距離で止まった。
「──二度はない。父の命令か、」
親指で圧迫をかけ、にじり佇む奴らを見据える。
同様な軽装だが、僅かに繊細な模様が刻みこまれていた。
胸元に映えるそれは、どこかで見覚えをする。
・・・
どこか──いや、なにか。
不意に風が舞い、目を見開いた。
「左様でございます。勅命のため、我等が派遣されました」
右手を伸ばし、彼は柚慧の下でうずくまる同胞を指さす。
不自然に起こる生暖かい風は、常に旋回しシャツを奮わした。
「……お前ら」
毛穴が開き、思わず腕をなぜる。
そうしてふと、先程までいた彼がいないことにようやく気づいた。
「っ、」
「彼は、此方です」
何故──否、理解する。
彼の腕には閃光の鋼玉が握られ、それは波動を持って大地を揺るがした。
「ルシエル、」
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