VOL.08

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翌日、約束の夜18時より30分前に待ち合わせ場所に着いていた博明。 博明の胸の中で何か説明のし難いモヤモヤがあった。 何か望んだ未来が遮られるような絶望感にも似た、とにかく無性に絶望的な支配に博明の精神は駆られていた。 亜紀ともう会えないかも…… という理由なき焦りが博明を襲っていたのは、紛れもない、否定できない事実そのものだった。 18時が過ぎて5分、亜紀は現れない。 やがて20分を過ぎて、亜紀からは連絡がない。 30分を越えた頃、雷が鳴り響く。蒸した空気が何か苛立ちのピークを越えたような感触。 18時30分にも関わらず薄明かるい空、そしてどす黒い雲、そして雨が突然激しく降りだし、奇怪な空を覆う雲のファスナーを引きちぎり下ろすかのような光の閃光が、雲の上から真っ直ぐに遠い向こうのどこかに落ちる。 同時に断末魔の叫びのような落雷音があたりを包み込んだ。 待ち合わせ場所のファミリーレストランの入り口に逃げ込んで亜紀を待つ博明。 「ふられたか……」 博明はやり場のない悲壮感を抱き始めた頃、女性の声が聞こえた。 「博明さん!お待たせしました!すいません!」 博明は声の方向に振り向くと、そこには半壊した傘をさした女性が立っていた。 亜紀である。 「随分と遅かったね」 博明は半ば失笑して言った。 「道に迷ってしまって……あと、携帯の充電が切れてしまったんです。アハハ…」 と失笑しながら話す亜紀。 「とりあえず中に入ろうか」 と博明が切り出す。 亜紀と博明は約束のファミリーレストランに入った。 前回と同じ注文をした二人は、たわいもない世間話に花が咲き、今度は話題になってる映画でも一緒に見に行こうという話にまで発展していた。 どこから見ても恋人同士の二人のやりとりの風景。 そして、博明はある確信と決断をした。 そう、博明はこの日、亜紀に言うためのある言葉を用意していた。
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