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博明と亜紀の食事会は、例により22時を回った。
次の日はお互いに仕事がある二人は、そろそろ帰らなければならない時間だ。
そんな時に博明は口を開いた。
それは今日ここに来る前から、いや、先日の食事会の後から心の中に芽生えた想いだった。
「亜紀さん……よかったらおれと付き合ってくれませんか?」
博明はいきなり言った。
亜紀はしばらく黙ったまま、俯いたまま、数十秒が経過した。
そして亜紀は口を開いた。
「ありがとうございます。でも……いきなり答えは出せません。少しお返事は待ってもらってもいいですか?」
博明は少し残念感を味わっていた。
即答で交際を了承してくれる自信があったからだ。
しかし、博明は何か違った感覚を亜紀の発言から理解しようとしていた。
博明の告白の後の亜紀の沈黙は、いきなり告白されて戸惑う女性の雰囲気とは何かが違っていたような気がしていたからだ。
何か、博明との交際に関して問題点でもあるのだろうか?
他に好きな人でもいるのだろうか?
しかし、博明は本業の勘をを働かせていた。
亜紀の沈黙には、何か別の問題を亜紀が抱えてる感があった。
それが何なのかはわからない。
「それじゃ、とりあえず明日も仕事だし帰ろうか」
博明は切り出した。
亜紀は無言で立ち上がり、博明の後ろを歩く。
店を出てから駅までの道も二人の会話はないままだった。
駅のホームまで会話がないまま二人は歩いた。
二人の乗る電車は別々で、亜紀の乗る電車が先に来た。
「今日はありがとうございました。またすぐに連絡します。」
亜紀は無理やり作った笑顔で言った。
「ありがとう。」
博明も無理やり笑顔で返した。
電車のドアが締まり、亜紀を乗せた電車は、ビルとビルの間に伸びる線路の向こうに吸い込まれるように離れていった。
23時を知らせる駅前のベルの音が、ホームまで聞こえてきた。
言いようもない空虚な気分に、博明はただただ囚われたまま、着いた電車に乗った。
そして、博明は部屋に着くまでの間、何も考えられないまま、自分のマンションの扉に辿り着いた。
その時
博明の電話が鳴った。
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