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「そういえば光もうすぐ誕生日じゃん」
「あぁ、そういえばそうだね」
「なんだよ、自分の誕生日忘れてんなよ」
「いや、コンサートの打ち合わせとかですっかり…」
最近になって決まった冬のコンサート。本番まで時間があまり無い為ほぼ毎日が打ち合わせやリハだった。
誕生日のことなんて考える暇がないくらい。
「…あ!そうだ!」
「何」
「さっき笑ってたのって何だよ?」
「まだそれ言ってるの?別によくね?」
「良くない!」
「…いいけどさ…、薮怒ると思うよ?」
「怒らないから言えよ。気になるじゃん」
一度言いだしたら止まらない薮。此方を目を輝かせながら見てくる。
俺はそんな薮をチラ、とだけ見て目線を外し、手遊びをしながら話した。
「昔、薮が泣きながら俺に告ってきた時のこと…、なんか思い出しちゃって…」
「…光、お前よくもそんな恥ずかしいことを…!」
「だから怒ると思うって言っただろ!」
「この話は卑怯だろ!俺が一番忘れたい過去を…この野郎っ」
顔を真っ赤にさせた薮。
その姿は、昔のあの時の顔と重なって見えた。
薮は昔から薮のままだった。
「今思えばさ、あの日俺の誕生日だったんだよな。なんで薮あんなに必死だったんだっけ?」
「……、お前が伊野ちゃんと遊びに行くって言うからだよ」
「あぁー、そうだ」
「本当は俺が光の誕生日祝ってやりたかったのに伊野ちゃんに先越されてさ。俺、あの日逃したら光が伊野ちゃんに取られちゃうような気がしたんだよ」
「そうだったの?俺も伊野ちゃんもお互いにそういう気なかったけど」
「知ってたよ。でも俺負けず嫌いじゃん」
「…そこどや顔で言うなよ」
今初めて聞いた当時の話しに、なんだか懐かしい気持ちが蘇ってくる。
あの時は薮が中三で俺が中二。今はもう二人とも二十歳を超えている。
いつの間にか長い年月が経っていた。
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