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俺に残ったのは別のポケットに入れておいた23円だけだった。
だがそれも、いまや排水溝に呑み込まれてしまった。
「神は俺のことがとことん嫌いなようだな」
俺の小さな呟きにガキが反応する。
「僕はお兄ちゃんのこと大好きだよ」
「お前じゃねーよ!」
俺は金持ちにしてくれる神に愛されたかったんだ。
「どうしたんだい。川崎君。突然叫んだりして」
そうだった普通の人にはこいつは見えてないんだ。見えたのは今のところ神主くらいだ。
「いや、ちょっと疲れていてさ」
「珍しいな、川崎君が疲れているなんて。僕のエロティックなゲームを貸してあげようか?」
この友人は斎藤拓弥。俺の23円が流れていった原因を作った男だ。
重度なオタクらしく、大学にはいつもバンダナを巻いて来ていて、チェック柄のシャツをズボンに入れている。カバンにはいつもポスターが突き刺さっている。
そんな外見とは逆に有能な奴で、この大学では期待の星とまで言われている。俺としても将来良いコネとなることを期待している。
「遠慮しておくよ」
「そうか。それにしても一体どうしたと言うんだい? 川崎君が疲れているなんてさ。」
「取り憑かれたというかなんというか‥‥‥。いや、忘れてくれ」
思わず口走ってしまったが、ここで変な奴だと思われるのは得策ではない。斎藤とは生涯、良い"友達"でいたいからな。
「 取り憑かれた、か‥‥‥」
「本当に忘れてくれ」
「そういうことなら心当たりがあるよ」
「ほ、本当か?」
まさかこんなことがあるとは。やはり持つべきものは"友"だな。
いつ利用できるかわからない。
「ああ、確か同学年に有名な霊能者の家系に生まれたっていう人が居たはずだよ。僕も見に行ったんだけど、めちゃくちゃ美人でさ‥‥‥」
話が長引きそうなので俺は無理やり軌道修正する。
「で、そいつの名前は? どこにいるんだ?」
「あ、ああ、名前は神代美咲。何時も三号館の二階に居るって‥‥‥」
俺は斎藤の話を最後まで聞かずに三号館へ向かった。
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