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その日の授業を全て受け切った後、俺は息急き切って三号館二階に駆け込み、"怪奇現象相談所"の札が掛かったドアを勢いよく開けた。
「血相抱えてどうしたんだい?」
部屋の奥には、突然の俺の入室に物怖じもせず、涼しげにこちらを見据える神代がいた。
「神代! お前、俺の最低限の生活を保証するって言ったよな!」
「ああ、間違いなく言ったよ。それより私のことは美咲と‥‥‥」
「そんなことはどうでもいいんだよ!」
俺を覆っていた"偽り"は昨夜の火事で燃やし尽くされたかのように消えていた。
「家が無くなったんだ! なんとかしてくれ!」
昨日聞いた話によると、火事の原因は隣のおっさんの煙草だったらしい。いつも威張り散らしていたおっさんの憔悴した姿を見て気持ちがスッとするとともに、可哀想な気もした。
確かにおっさんの不注意ではあったが、それを仕向けたのは紛れもなく貧乏神だ。俺を不幸にするために貧乏神がおっさんを利用したとも言える。つまりおっさんは俺に巻き込まれた形になるわけだ。
かといっておっさんを庇うつもりもないが。
ともかく、決して剥がれ落ちないと思われた"偽り"のペンキは、あまりにも絶望的な状況によってあっさりと素の部分を曝したのだった。
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