神に愛された男

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 23円。  それが俺の今持つ金であり、俺の全財産でもあった。  ズボンのポケットに入れてある小銭を確認する。  1円と5円で構成された23円は幾ら数え直しても23円でしかなかった。ポケットの中には10円玉すらない。  手のひらに置かれた小銭を見て深く溜め息を吐く。 「クソ、俺は金持ちになるんだ。そのために有名大学に入ったっていうのに」  今までの貧乏な生活から脱却するためにここまで頑張ってきたんだ。奨学金制度まで使って大学に入ったんだ。こんなところで挫折してたまるか。  俺は空を見上げて心に誓う。  そんな心中に大いなる野望を秘めた俺を何者かが強く叩いた。 「川崎君! 大ニュースだよ!」  その声と共に手のひらの小銭が空を舞った。  小銭は吸い込まれるように排水口へと消えていった。 「おっと、すまない」  そいつはあの小銭が俺の全財産であることを知らず、軽い口調で謝る。  俺は怒りに身を任せる、なんてことはせずに必死で笑顔を作る。 「いいんだ、たった23円だから」  そのたった23円が俺の全財産だったのだ。 「ところで僕に何の用かな?」 「ああ、聞いてくれよ。実はね‥‥‥」  楽しそうに話し始める友人を尻目 に、俺は隣にいるみすぼらしい格好をした少年を睨みつける。  少年は楽しそうに笑いながら俺たちの周りを走り始めた。  そう、コイツが、この人畜無害そうな少年こそが、俺をこの様に追いやった張本人、貧乏神だ。
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