0人が本棚に入れています
本棚に追加
貧乏神は弛んだ頬を引き締めると、神代に目を合わせた。
「お姉さん、お願いがあるの」
「うん? 何かな?」
貧乏神は下を向き、躊躇った素振りを見せた後、上目遣いで神代に訴えかけた。
「僕、お兄ちゃんのこと大好きなんだ。だから僕をお兄ちゃんから引き剥がさないでください」
神代は笑顔を濃くして即答した。
「わかった、約束するよ」
「おい! 俺との話はどうしたんだよ。二枚舌にもほどがあるだろ。お前はイギリスか!」
俺の僅かに怒気を込めた叫びを聞いた神代はクスクスと笑い始めた。
「なんだよ」
「いや、馬鹿にしているわけではないんだ。ただ、ここまで心を開いてくれるとは思っていなかったからね。まさか誠の口からそんなキレのいいツッコミが出るとは思いもしなかったよ」
「うるさいな。本心曝せって言ったのは神代だろ。それにさっきのはツッコミじゃなく俺の切実な叫びだ!」
「まあまあ、落ち着いて。私は約束は守るよ。君から貧乏神君を遠ざけるし、貧乏神君を大好きな誠から引き剥がしもしない」
矛盾している神代の言葉に混乱する俺と貧乏神。
神代は俺たちの様子を見て堪えきれないとばかりに笑い始めた。
「さあ、そろそろ行こうか」
ひとしきり笑い終えた神代は楽しげに扉へ向かった。
俺と貧乏神も疑問を抱えながらも神代について歩き出した。
「おっと、そうだ」
神代はドアノブに手をかけたと同時にこちらを振り向いた。そのまま貧乏神に視線を合わせて微笑んだ。
「君の名前を教えてもらえるかな?」
最初のコメントを投稿しよう!